第11章 暗闇の中で
生きるため、ただ今日の食べ物を得るために、戦うことの何が間違っているのだろう。
だって、そうしなければ、彼らは死んでしまうかも知れないじゃないか。
マスルールの振り回した大木の迫力で、勢いが落とされていたスラムの民に、士気が再び戻ってきていた。
じりじりと迫り来るスラムの人達に、ハイリアはどうしたら良いのかわからなくなった。
「げぇっ……スラムの奴らじゃないか! 館に匂いがうつるじゃないか、寄ってくるんじゃない! これをやるからさっさとどこかへ行ってしまえ!! 」
最上階から様子を見下ろしていた貴族の男が、汚い言葉を吐きながら手に持っていた食べかけの骨付き肉を、窓から放り投げ捨てた。
放られた肉をみて、貧困街の人達の視線が一点に集中する。
地面に叩きつけられ、砂だらけになった肉をみて、真っ先に駆け寄ったのは、ナイフを振りかざし、乳飲み子を抱えていた、あの母親だった。
迷いながらも地面に落ちた肉を拾おうと、伸ばしたその手を、シンドバッドは寸前で止めさせた。
「そんなことする必要はない。屋敷の中で好きなだけもらってくればいい。だが、命だけは見逃してやれ」
シンの言葉に、母親は驚きながらも頷いていた。
それを合図に、ハイリアの周りを囲んでいたスラム街の人達が、一斉に屋敷内に侵入していった。
窓やドアを壊す音が響いたが、それを止める者は誰もいない。
「お前ら、なぁーにやってんだ! おい!止めないかー!! 」
貴族の男のやかましい怒鳴り声が響いてきたが、シンは聞く気がないようだった。
「いいんすか?」
「だって俺たち、『霧の団』を捕まえるって約束しただけだしな」
シンが、当たり前のようにそう言ったのを聞いて、スラムの人達と戦わなくて良いのだとわかり、ハイリアは安堵した。
「この国は、もうだめかもな……」
屋敷から目を逸らし、夜空を眺めながらぽつりと呟いたシンの表情は、ひどく寂しげだった。
そういえば、バルバッドは恩人がいた国だと言っていた。もしかしたら、シンはその人のためにも、内乱を治めたいと思っているのだろうか。