第27章 緋色の夢 〔Ⅻ〕
── おいっ、それってまさか……!?
焦燥感が押し寄せて目を見開いたとたん、闇の中で笑う真っ黒な巨鳥が見えてジュダルは目を疑った。
漆黒に覆われたそこは、黒ルフだけが飛び交う闇の巣窟。
いつの間にかたどり着いていたその場所で、闇底の主のような黒い巨鳥に見下ろされる。
『くくくっ、まさかこちらまで参られるとは、せっかちなマギよ。我ら同胞たちの声を聞きつけ、気でもはやったか? 』
楽しげに目を細め、にんまりと黒い巨鳥は言う。
『何も心配することはない。おまえはただいつものように流されていればいいのだ。我が雛鳥が来るのをそこで待つがいい、黒きマギよ』
くつくつと黒い巨鳥が声を上げて笑い、側で渦巻く黒ルフの闇がケタケタと大きくざわめいた。
『ヒナドリ、ヲ……』
『……ワレラガ、モトニ……』
言葉を紡いだその闇から勢いよく漆黒が湧き出して、真っ黒な突風が巻き起こる。
ぶつかり当たってきたその巨大な力に吹き飛ばされそうになったとたん、視界が歪んで強烈な眠気に襲われていた。
── 待てよ、まだ……、オマエらに……!
頭が麻痺していく感覚にどうにか足掻こうとして手を伸ばしたが、奪われた身体の感覚が戻るはずもなく、視界はみるみる霞んでいった。
意識が闇に落とされていく。
深い、深い闇の底に……。
その意識が呑み込まれる直前、闇の彼方に座り込む小さな影を見た気がする。
暗黒を抱えて笑い、黒ルフたちを惹き寄せる歪な影を。
それが見慣れた少女のようで苛立ちを覚えたのが、最後の記憶。
そこから先は、よくわからない。
ただ真っ黒で……。
うるさくて……。
気がついた時には、どこか薄暗い、硬い感触のする場所に倒れ込んでいたのだから。
── どこ、だよ……、ここは……?
急激な変化の連続に頭がこんがらがる中、さっきまで鳴り響いていたはずの黒ルフどもの声がしていないことにも気づく。
── 黒ルフどもの、中じゃねぇ……?
虚ろなまま辺りを探ろうと試みて、薄暗いその中から聞こえたピチャンという水音に、意識が引きずられた。
ピチャン、ピチャンと響くその音は、硬い地面を水滴が跳ねるような音だった。