第27章 緋色の夢 〔Ⅻ〕
闇の連鎖に巻き込まれて、胸に焼き付いた暗黒の真髄さえ高まれば、儀式はそのうち終わるはずなのに……。
ふと、絡んで切れた黒い髪紐のことが脳裏をよぎった。
薄気味悪い、歪な残像が焼きついて離れなくなる。
いがみ合う二匹の蛇のようだった、黒い残像が。
── なんで、あんなもんが気になる……?
あれは、ただの紐クズだ。
ぐぢゃぐじゃとした黒い見た目が気持ち悪いだけの……。
不快感を刺激してくる黒い残像が、そわそわと落ちつかない感覚を蘇らせて胸をざわつかせた。
こんなに不穏な気分になるのは、ルフの闇に浸かっているせいだろうか。
間違いなどないはずなのに。
何かが焦らせ、気を乱す。
俺自身の中にある何か。
呼ぶような、叫ぶような……、熱のようなものがジクついて……。
『……気ニ、ナルノ? 』
── ?
暗闇に響いた違和感のあるソレに、自然と耳を傾けていた。
『ネェ……』
『気ニ、ナルノ……? 』
『マギ、モ……』
『……気ニ、ナルノ……? 』
ビィービィーとうるさい黒ルフたちの声に混じりながら、ポツリポツリと響き渡る。
一人のようにも、それ以上のようにも感じられる、距離感のない不思議な声が。
── なんだ、この声……?
闇深くから聞こえてきたその声の元を探るように、暗闇に意識を向けると、くすくすと笑うようなざわめきが起こった。
『ネェ……』
『……マギ、モ……』
『気ニ……、ナルノ』
『デショウ……? 』
── 気になる?
『ダッテ……』
『ヤット……、ウマ、レル……』
『……カラ』
── やっと、生まれる?
『ソウ……』
『……ヨウヤク……』
『ウマ、レル……』
『……カラ』
『ダカラ……』
『……ワレラ、ノ……』
『ヒナドリ……、ノ、コト』
『気ニ、シテ……、イルノ、デショウ……? 』
── ヒナドリ……?
暗闇に拡散したその言葉が、ざわつく胸の感情を刺激して、脳裏に白の記憶を呼び起こした。
光り輝く空間と、白い巨鳥。
そして、その傍らで眠りについていた翼の生えた白い少女の姿を……。