第27章 緋色の夢 〔Ⅻ〕
余計な考えなんて、早く消えてしまえばいい。
混沌とした黒ルフどもの中に意識が埋もれてしまえば、この胸のわだかまりだってなくなるはずだ。
いつもと同じように。
どこまでも騒がしい、闇の声に呑まれてしまえば……。
肌に差し込んできた冷たい闇の感触を確かめて、黒ルフどもの中に埋もれ込む。
沈んでいくほどに静けさはなくなり、何か目まぐるしい渦のような音の嵐に取り込まれていった。
まるで意識を奪うように迫り、頭の中をかき乱していくそれは、何かが叫び呻き、そのくせこちらにすがりつくように絡んでくる暗黒の声だ。
不快極まりない、儀式の時に黒ルフどもから聞こえてくる耳障りな音。
よく知った、気持ちが悪い音の波。
頭に響き、思考をバラバラにかき乱していく、この闇の流れに逆らうことは決してしない。
無理に逆らおうとすれば頭の中が壊れそうになり、息ができないような苦しさに襲われることを知っているからだ。
この流れに抵抗するだけ馬鹿らしいのだと悟ったのは、まだ儀式に慣れていない幼い頃のことだったと思う。
何度もルフの闇に溺れ、記憶もバラつき、時間の感覚さえ無くしていたあの頃。
いつまでも重く残る身体のだるさに苛まれていたというのに、それでも続けられた儀式の最中、とうとう耐えきれなくなった身体が意識を手放したのだ。
あらがうこともできずに、ただ闇の渦に深く落ち込んで。
記憶を切り刻んだ闇の音に取り込まれた瞬間、きっと壊れてしまうのだろうと思った。
けれども虚ろな意識が目覚めると、なぜだか気分の悪さも、記憶のバラつきも、いつもよりマシになっていたのだ。
理由なんてそれで十分だった。
あらがうことでバカを見るなら、そんなもんやめちまえばいい。
ルフの闇にただ流されていればいいなんて、ラクな話なのだから。
── なんであんな頃のこと、思い出してんだ……?
こんなこと、どうでもいいはずだというのに。
余計な考えを消し去るつもりが、また一つ余計なことを思い出していて嫌気がさす。
どうもいつものように、ぼやけた意識がすぐさま闇の奥へ落ち込んでいかない。
黒ルフどもの声は確かに聞こえるのに、乱れた思考がいつまでたっても流されないのだ。
黒い水面に切り刻まれた記憶の破片が揺らめいて、気持ちが悪い。