第27章 緋色の夢 〔Ⅻ〕
ようやく終わりを告げた朝議のあとは、いつもよりガヤガヤと騒がしかった。
毎度執り行われる神事のために、広間の彫り描かれた八芒星の中へと足を運んでいたジュダルの耳にもそれは響いてきた。
「いよいよですな、あの王が堕転されるのは」
「喜ばしいことで」
「……は未だ、抵抗を続けているのだとか……」
「聖宮に動きは? 」
「今のところ何もみられません。警戒は続けておりますが」
「神……殿は、あの王を堕…………られるのでしょうか?」
「邪魔が入らぬとは何よりですな」
「まさかあの計画が実を結ぶとは」
「しかし、ここまで順調ですと逆に気味が悪い気もいたしますぞ」
「大丈夫でしょう。仮にできなくとも……が……」
「心配のしすぎでは? 」
「そうですとも、きっと上手くいきましょう」
「すべては、我らが父のお導きのままに」
── うるせぇーな……。
浮かれた声に混じる、ひそひそとした耳障りな声にイラついた。
胸をざわつかせるその声から意識を逸らすように、硬い床の感触を確かめる。
石造りの床に彫られた魔法陣の凹凸は、見た目以上に冷たい。
足裏から体温が奪われていくのを感じながら天井を見上げると、ぽっかりと上に伸びた空間の奥にも、同じような石細工が視界を埋めるように存在していた。
蓋みたいなそれのせいで、空も見えやしない。
もやついた気分が全く晴れずに、ため息をつく。
「どうしたの? 考え込んでいるような顔をして。あの子のことが気になって眠れなかったのかしら? 」
聞こえた声に視線を送ると、優雅に玉座に腰かけた玉艶が、檀上から楽しげにこちらを見下ろしていた。
「迷いがあるなら、私が変わってあげてもいいのよ? 」
「迷ってなんかねーよ。余計な手出しはしてくるなよな」
じろりと威圧をかけて女を見据えると、鋭い視線がぶつかり合う中、玉艶は面白そうに口角を上げた。
「ふふっ、恐い顔。安心なさい。余程の問題でも起こらない限り、こちらから手出しはしないわ。あなたの望み通りに事が運ぶよう祈っているわよ、可愛いジュダル」
そう言って、わざとらしい笑みを浮かべる玉艶に不信感しか募らないのは、幼い頃から約束なんてものは組織の都合で何度も破られてきているからだろう。
当てにならない口約束も、ないよりはマシだが……。