第27章 緋色の夢 〔Ⅻ〕
扉を開けると、いつもならこちらをすぐに見るはずの真っ白な存在が、なぜか見当たらなかった。
寝台に盛り上がった掛け布団で気づく。
「なんだよ。まだ寝てんのか? 」
山なりになっているそこまで歩き、中をのぞきこむと、ハイリアは布団にくるまってスースーと寝息を立てていた。
熟睡しているのか、こちらがやってきたことに気づく素振りもない。
外では空もすっかり明るくなっている。
早起きが癖づいたこいつなら、とっくに起きている時間帯だ。
「珍しいな、おまえが寝坊するなんて……」
ここに閉じ込めてからも、教えもしないのに朝になれば勝手に目覚めていた奴だった。
それがこんな時間まで目を覚まさないなんて、とうとうこいつも限界を迎えて耐えきれなくなったということなのかもしれない。
考えてみれば、すでに夢か現実かもわからないほどに、呪印に呑まれて意識が虚ろだったのだ。
今までこうならなかった方がどうかしていた。
本当ならとっくに限界だったはずなのだから。
「ったくよぉ……。おまえがこんなんじゃあ、俺がここに来てやった意味がねーんだけど? 」
声をかけたところで、当然ハイリアからの返答はなかった。
すっかり習慣になったせいか、こいつに髪を結い直してもらわないとどうも落ち着かないというのに、当の本人はこんな調子だ。
なんとなく無理矢理、揺すり起こす気にもなれなくて、ジュダルは仕方なしに伸ばしかけていた手を引っ込めると、寝台の空いた隙間に腰かけた。
ぐっすりと眠り込んでいるその姿を見て、ため息をつく。
「まぁ、今日くらいはいっか……。おまえに髪を結い直してもらわなくても……」
── どうせおまえには、あとでじっくり付き合ってもらわなきゃいけねーしな……。
それまでは、しばらく眠らせてやってもいいのかもしれない。
与えられた期日は、今日までだ。
それを過ぎれば、組織のすべてがこいつに迫る。
どんなおぞましいことをしてでも、被験体であるこいつを堕転させようと。
「ここまで耐えたことは褒めてやるよ。けどな、おまえを親父どもに触れさせたりなんてさせねーからな」
── 俺が全部終わらせてやるよ。
おまえを縛るしがらみも、呪印も。
そんなもん気にしなくていいように、全部まとめてぶっ壊してやる。
だから……。