第27章 緋色の夢 〔Ⅻ〕
快楽が苛立つ感情をやわらげて保たせる。
虚言を吐いてるのは、いったいどっちだ?
よくわからない。
けれど、どうでもいい。
どうでもよかった。
── 今はおまえが確かに側にいることを、感じられれば……。
高みを超えて果ててしまうと、ハイリアはいつしか眠ってしまう。
その表情だけは前と変わらず穏やかで、やけに疼く胸の痛みを忘れさせてくれた。
かすかに微笑んでいる様にも見えるその寝顔を撫でて、静かに口づけを交わすと、ジュダルは落ち着かない気持ちから逃げ出すように部屋を出た。
何でこんなにイライラするのだろう。
期日はもう間近だというのに。
── まさか迷ってるのか? 今さら……。
あんな鳥どもに妙なことを言われたくらいで……。
「神官殿、王の調子はいかがですかな? 」
書庫へ向かう途中、廊下ですれ違った覆面の従者が声をかけてきた。
「変わんねぇよ。昨日と同じだ」
そう言って、ジュダルは軽やかに笑ってみせた。
「あと一日ですからな。それを過ぎれば、あの王は……」
「ああ、わかってるよ」
だからあいつは、自分に執着させて堕転させると決めたんだ。
── わたさねーよ、誰にも。
だからな、ハイリア……。
── ちゃんと、俺のもんになれるだろ?
ピィーピィーと側を飛んでいた五月蠅い白ルフに腕を伸ばして捕らえると、それを手のひらで黒く染め変えて、空に放して笑ってやった。