第27章 緋色の夢 〔Ⅻ〕
「ははっ、やっぱなんでもねぇ。おまえは、ただのハイリアだ」
にっと笑うと、虚ろなハイリアが首をかしげていた。
「よくわからない……」
「いいんだよ、おまえはそれで。もっと足掻け。無反応じゃつまんねーんだから」
身体を抱えて寝台に移ると、急に服が引きつれた。
何かと思えばハイリアが恐々と表情を硬くして服を握りしめていた。
「いやだ。もう痛いの、したくない……! 」
虚ろな瞳に宿る、確かなこいつの意志を見つけてジュダルは笑った。
「そうかよ、じゃあ思いっきり痛くしてやる。無視できねーようにな」
そう言ったとたん、絶望を示したハイリアの暗い眼差しに、なぜかいつもより胸が締め付けられて苦しくなった。
── なんだ……? なんなんだよ……。
どうして今頃、こんな感情になる?
引き裂かれるような感覚が、胸の奥で揺れ動く。
『「マギ」よ、どうか我らの大切な雛鳥を救っては下さらぬでしょうか? 』
夢に出て来た白い巨鳥の言葉を思い出してしまい、頭からふるい落とした。
── うるせぇっ……! なんで、おまえが出てくる?!
「……どうして、ジュダルは……」
悲しそうに伏せられたブドウ色の眼差しと震えた声に、また胸が締め付けられて息苦しくなった。
大きな片翼の生えた真っ白な姿が浮かび上がり、頭から振り払う。
「黙れよ」
腹立たしささえ覚えて、その口を唇で強引に塞いで押し倒していた。
諦めたように無抵抗になり始めたこいつの眼差しは、虚ろなくせにまっすぐ突き刺さってくる。
それが面白くなかった。
消えない息苦しさに、絡めた舌先に噛みついてやると、ハイリアは苦痛に顔を歪めてもがき、涙を溢れさせた。
明らかな反応を示し、表情を変えたその姿に気分が高まり情欲が湧く。
酔いそうになる甘い血の香りを頬張りながら、柔らかなこいつの肢体にうもれてしまえば、理性は簡単に飛んでいった。
重なる温もりが心地良くなり、乱れる呼吸も、色づくハイリアの表情も、その声も、すべて自分のものになる。
刺激に溺れさせていくほどに、ハイリアの瞳は赤く潤んでそこから涙がこぼれ出た。
安心感さえ覚えてしまう、それがもっと見たくなって、わざと痛みを与え、泣かせるような言葉を選んで言っていた。