第27章 緋色の夢 〔Ⅻ〕
覗き込んだ瞳は、ひたすら陰っていた。
表情も乏しく、その姿は温かさも、冷たさも宿さない人形のようだ。
目の前で手の平をひらひらと動かしてやっても反応がない。
「ハイリア……? 」
もう一度、声をかけたとたん、急に思い出したようにハイリアのまぶたが瞬いた。
口元に触れて、くわえていた銀のスプーンを取り出すとそれをぼんやりと見つめ、机に並ぶ空の器を見るなり妙な事を口にする。
「あれ? なくなってる……」
まるで初めて目にしたような言葉だ。
「なくなってるじゃねーよ……。おまえ、ぼーっとしすぎだろ。どっか行っちまってんのか? 」
呆れて果ててため息が出た。
「あのなぁ……、おまえがちゃんと食うようになったのはいいんだけどよぉ、やっぱりおまえ……、朝からなんか変だぜ? 」
「へん……? 」
「変だろ、声かけても時々反応しねーし、飯食いながらも上の空だ。いったいどこ見てんだよ、おまえは? 」
「どこも見てないよ。ご飯を黙って食べてただけで……」
空っぽの器を見つめ、スプーンを置いたハイリアの顎先に触れて上を向かせたが、そのよどんだブドウ色の瞳は、確かにこちらを捉えているのに力がない。
── おまえ……、まさか俺が見えてねーのか?
違和感を覚えてジュダルは顔をしかめた。
「黙って飯食うやつが、食べ終わったことにすら気づかないのかよ? 」
「……それは、たまたま……少し、忘れてしまっただけ……」
「忘れた? 」
馬鹿な事を口にするハイリアの瞳を、近づいて深く覗き込む。
合わさったブドウ色の瞳からは、やはり何も読み取れない。
抵抗を諦めた結果、壊れてしまったのだろうか。
けれど、そのわりにはよくしゃべる。
意味のわからない虚言を口走ることもない。
── ほんとに何を考えているんだ、おまえは……?
「おまえ……、ほんとにハイリアだよな? 」
聞いたとたん、ハイリアの眉間にしわが寄った。
「どういうこと? 他の誰かに見えるの? 」
苛立ちを示した、こいつらしい反応に安堵した。
壊れているわけではない。
反応が鈍いだけで、こいつは変わっていない。