第27章 緋色の夢 〔Ⅻ〕
── まぁ、ほんとに諦めちまったんなら、それはそれでいいのかもしれねーが……。
どうせ明日中に堕転させなければ、こいつの管理下は自分ではなくなる。
ハイリアとのゲームも、ここまでということだ。
こいつは結局、呪印に勝てずに俺自身の手によって堕転する。
それで終わりだ。
── そう、それで終わりなんだ。
考えたとたん、急につまらなく思えてジュダルはため息を吐いた。
これでハイリアが手に入るというのに、どこかで残念がっている自分がいる。
ハイリアなら、何かを変えてしまうような気がしていたからかもしれない。
簡単に堕転を果たした他の奴とは違う、こいつなら……。
── 何を期待してんだ、俺は……? もうすぐ、こいつは俺のもんになる。いいじゃねぇーか、それで……。
また、ため息が出てジュダルは顔をしかめた。
どうもモヤモヤする。
期日を組織に決められた時点で、わかりきっていたことだというのに。
今まで同じような事を何度もやってきたし、ハイリアをこのまま側に置いておくためには、必要なことだとも思った。
だから、決めてやってきた。
他の奴に触れさせないために、こいつの心も身体も自分に惹きつけて堕転させようと……。
それなのに、なんで、こんなに苛立つんだ?
── 今さら、何考えてんだよ、俺は……。
落ち着かない気を紛らわすように、気づけば黒く長い三つ編みをいじっていた。
ハイリアが結びとめた髪紐に、指を絡ませながら。
カチャンッと乾いた音がして目を向けると、いつの間にか机には空の器が並んでいた。
── ほんとに全部、一人で食っちまったんだな……。
見事に完食した食事に呆れながらハイリアに目を移すと、なぜかその口にはまだスプーンがくわえられていた。
何も入っていない器を片手に握りしめながら、ぼーっとどこかを見つめている。
── ん? どこ見てやがる……?
視線の先をみても、ただの壁だ。
「ハイリア、おまえ……、何見てんだ? 」
こちらの声に気づくこともなく、ハイリアはひたすら一点を見つめて微動だにせず椅子に座っている。
今朝もあった、同じようなことが。
まるで抜け殻のように全く反応を示さなくなって、視点が合わないのだ。