第27章 緋色の夢 〔Ⅻ〕
あれから、また一日がたった。
椅子に座るハイリアは、さっきから持ってきてやった食事を黙々と食べている。
この部屋で目覚めて以降、意地でも口にしなかった食事をだ。
今朝からハイリアの様子は、どうもおかしい。
女官から朝食を全てたいらげたと聞いた時には、目が飛び出るかと思った。
毎度しつこくハイリアの様子を聞く自分を面倒に思った女官が、都合のいい嘘でもついたのかと疑ったが、どうやら嘘ではなかったようだ。
現にこいつは、持ってきてやった昼食を食べている。
昨日、少々強引に食わせてやったのが効いたのだろうか。
とはいえ、あれだけ拒否し続けていた食事を、急に嫌がりもせずに食べ始めている様子は薄気味悪くもある。
── 何かが、こいつを変えたのか?
昨晩、眠りについて起きてから、ハイリアの雰囲気は少し変わったような気がする。
大人しくなったというか、やけに従順になったというか……。
はっきり言って変だ。
こいつが抵抗を諦めたなんて、とてもじゃないが信じられない。
負けず嫌いで意地っ張りのこいつが、こんな簡単に折れるとは思えないのだが。
── まさかこいつ、俺が知らねぇーうちに、勝手に堕ちたんじゃ……?
いや、違う……。そんなはずがない。
瞳に陰りはあるが、こいつは堕転しているわけではない。
その証拠に、ハイリアの中ではまだ呪印が動いているし、ルフも一点だけは白が残っている。
真っ黒な翼の一端に残るような白い輝きが。
── どういうことだ? 何を考えている?
食べるその様子を、じっと見つめていると、虚ろなブドウ色の瞳がこちらを見た。
「なに? 」
「あ……、いや……。急に静かになりやがったから、気味が悪いんだよ」
「……そう? ただ……」
「ただ? 」
「すごく……、お腹がすいたの……」
「ああ……、そう……」
そして、また無言が続く。
夢中にも見えるほどに、黙り込んで食事をとるこいつの姿に、たじたじさせられているのは、なぜか俺自身の方だ。