第27章 緋色の夢 〔Ⅻ〕
── あいつに刻まれた呪印をみただろ? あれはルフを黒く染める魔法だ。堕転するか、死ぬまで止まんねーってのに、おまえらは、あいつをもっと苦しめろってのか!?
『そういうわけでは……! 』
── だったらなんだ。堕転した俺の側に、おまえらの大事な雛鳥がいるのが気に入らねーってか?
『そうではないのです。どうかお話を……! 』
── うっせぇ、黙れ! 俺は、あいつが変わろうがかまわねぇ! どうなろうが、最後まで面倒みてやるって決めてんだ!
眩い白い光を振り払うように、ありったけの闇を湧き上がらせて怒鳴り叫ぶ。
それを止めるように飛び向かってきた白ルフを、強く握りしめて真っ黒に染め変えてやった。
── 邪魔してくるんじゃねーよ! ハイリアは俺のもんなんだ。てめぇらにとって、都合がいい雛鳥なんかじゃねーんだ!
あいつがルフとして運命に縛られてるなら、そんなもん壊してなくしてやる。さっさと、俺の目の前から消えやがれ!
声を荒らげて言い放ったとたん、目を見開く白い巨鳥が闇の奥にかすみ、暗黒が身を覆いつくした。
弾かれるように漆黒の闇に放り出され、透明な白いきらめきが勢いよく遠ざかる。
流れるような黒が切り裂けて、ハッと目を開いたそこに、真っ白な少女の姿が見えて飛び起きた。
鼓動が高鳴る中、ハイリアは変わらず側で眠っていた。
その背に翼はなく、姿もただの人でしかない。
何もない小柄な背に触れて、ためらいながらも安堵する。
── なんだったんだよ、今のは……。
溜息をつき、かき乱された気分を紛らわすように、背中に広がるクセのない白髪に指を絡めていると、ピィーと高い鳴き声が耳に響いてきて戸惑った。
動揺してしまうその声をたどった先に、側を飛び交う一羽の白ルフを見つけて腹が立つ。
「くっそ、おまえのせいか! あっちいけよ! 」
叩き落とすように手で振り払うと、白いルフは慌てた様子で逃げ飛んで行った。
部屋の壁をすり抜けた、その姿が見えなくなる。
邪魔者がもう部屋にいないことを確かめると、ジュダルは再び寝台に埋もれ込んで、落ち着かない気分をやわらげるように、眠るハイリアを抱き寄せた。
柔らかくて温かい、いつもの感触がした。
それなのに、胸に何かが引っかかって、いつまでたっても心地よいまどろみが訪れない。