第27章 緋色の夢 〔Ⅻ〕
── おまえらさぁ、頼む相手を間違ってんじゃねーの。俺は堕転した「マギ」なんだぜ? おまえら、白ルフの言うことを聞くとでも思ってんのか?
『堕転されていようと、貴方様が我らルフの愛し子であることに変わりはありません。
そなたが、ルフを統べることができる「マギ」だからこそお願いするのです。堕転に傾いた雛鳥も、そなたの言葉になら耳を傾けるかもしれません。雛が唯一認めた「マギ」が、そなたなのだから……。
貴方様ならば、きっと雛鳥を闇から救うこともできるはずです』
── あのよぉ……、俺はあいつが何者だろうと、もうどうでもいいんだ。あいつを手放すつもりもねーし、何言われようと俺の手で堕とすつもりだぜ。
『それで雛鳥が、今とは違う者へと変わってしまうとしてもですか? 』
白い巨鳥は責める様子もなく、ただまっすぐにこちらへ眼差しを注いでくるから、ますます面倒くさい気分になる。
── 堕転すりゃー、性格くらい変わるだろうよ。それがどうした?
『違うのです。ルフが堕転するということは、本質のすべてが変わるということ。半身がルフである雛鳥も、ルフの理からは抜け出せません。今とは全く異なる黒鳥になってしまうのです』
── 黒鳥? ルフが黒く染まるってことだろ。運命を恨んで堕転した奴なら、みんなそうじゃねーか。
『そうではないのです。貴方様が思っている以上に、雛鳥は変わってしまうのです。貴方様も雛が変わることなど、本当はお望みでないはず……。
お願い申し上げる、「マギ」よ。我らの雛鳥が闇に染まりきる前に、どうか……! 』
── うるせぇーんだよ!!
くどくどと何度もしつこい白鳥にムカついて、ジュダルは声を張り上げていた。
身に宿る黒ルフを湧き上がらせて、巨鳥を睨みつける。
── わかんねぇー野郎だな。あいつはもう堕転するしか道がねーだろうが!
どこまでも純白な巨鳥の姿に苛立ちが募った。
まっすぐに見つめてくる瞳も、寂しげにこちらに眼差しを注ぐ様も、諭されているようでイライラする。
穢れない眼差しを見ていると、なぜか汚れていなかった頃のハイリアとの日々が次々と頭に浮かび、胸の奥で絡んでいる何かを逆なでられているようだ。