第27章 緋色の夢 〔Ⅻ〕
── おいっ……、おまえらの雛鳥って……、まさか!?
『そうです。ヒトの世で、ハイリアと名付けられた娘子のことです。
この娘は、ヒトでありルフ。どこからか流れてきた名もなき赤子が我らの卵にたどり着き、そこでルフ王鳥の雛と結びついた者。
数奇な運命を背負う、我らの大切な雛鳥です。しばらく見ないうちに、随分と大きくなりましたが……』
白い巨鳥は懐かしそうに言って、言葉を続けた。
『雛鳥は、ルフの世に生まれました。ですが、あれの半分はヒトです。雛もヒトの世にずっと焦がれておりました。
ある時、ルフの世にばかり居続けることが不憫に思い、皆でヒトの世へ送ってやったのです。人間として生きていけるよう赤子の姿へ戻し、我らの元に流れついた時に身につけていた物を持たせて……。
しかし、それが間違いであったのかもしれません。まさか闇の印を刻まれ、ルフの力が閉ざされて、我らとの絆も断ち切られるとは……』
光の殻の内で眠るハイリアを見つめて、白い巨鳥が目を細める。
『雛鳥と話せなくなり、もう幾年が経過したことでしょう……。ようやく我らとの絆が戻ったかと思えば、雛は堕転しかけておりました。
雛の翼は黒に染まりつつあります。このままでは、完全に闇へ堕ちて、望まぬものとなってしまう……』
巨鳥はジュダルへと向き合うと、ゆっくりとこうべを垂れた。
『「マギ」よ、どうか我らルフ鳥の祖となる雛鳥をお救い下さい。
あれはヒトと混じれどルフ王鳥の雛。将来、ルフを導く流れとなる者。黒く染まることなど、あってはならない者なのです。
逆流する運命に囚われ雛が黒鳥となれば、今とは全く異なるものになってしまいます。大事な雛鳥にそのような道をたどってほしくはありません』
── ……それって、俺にハイリアを堕転させるなって言いてぇーのかよ?
『はい……。あんなに翼が汚れてしまっては、我らでは雛鳥に声を届けることもできません。
もう貴方様にしか頼めないのです。雛鳥が認めた「マギ」である貴方様にしか! どうか我らの雛を、堕転からお救い下さい! 』
混じり気のないまっすぐな眼差しが突き刺さってきて、面倒くさい気分になる。
そのまわりで騒ぐピィーピィーと騒ぐ、白ルフたちの言いたいこともわかってきて、ため息が出た。