第27章 緋色の夢 〔Ⅻ〕
どうやら、こっちの意見は完全無視らしい。
頼みとやらを聞くまで、静かに眠らせてもくれないようだ。
飛び交う白ルフどもの中に鎮座する巨鳥を苛立ちながら見上げると、そいつは近くで見れば見るほど馬鹿でかかった。
真っ白な光の塊のようなそいつと比べたら、自分の大きさなど小さな赤子に等しいだろう。
それをわかっているのか、まるで幼子でも見るかのように、白い巨鳥は見下ろしてきたから気に入らなかった。
── で、何なんだよ。俺にしか頼めねぇ「頼み」ってのはよぉ……?
眉間にしわを寄せ、明らかな不機嫌を示して腕を組む。
それでも白鳥は、表情ひとつ変わらない。
『貴方様へお頼みしたいことは、ただ一つです。「マギ」よ、どうか我らの大切な雛鳥を救っては下さらぬでしょうか? 』
── おまえらの雛鳥?
『我らルフ鳥の流れを司る、王鳥の雛のことです。輝かしい雛鳥を、貴方様もご存知のはずだ』
── ルフに雛もなにもあんのかよ? そんなもん、俺は知らねぇーよ……。
何を言われるかと思えば、よくわからないルフの子どもを助けろときた。
王鳥だかなんだか知らないが、ルフの雛のことなんて知ったことじゃない。
『知らないはずはありません。我らの雛鳥は、そなたとも関係が深いはずだ。お気づきでないならお見せしましょう。雛鳥の本来の姿を』
妙なことを言う白い巨鳥が翼をはためかせたとたん、風のように巻き起こった真っ白な丸い光の帯の中に、何かが映りこんだ。
真っ白な長い髪に、象牙のような白い肢体。
整った顔立ちをした、この少女は……。
── ハイリア……?
現れたその姿に、ジュダルは目を見開いた。
長いまつげから、桜色の柔らかそうな唇にいたるまで、それは見慣れた側近の姿とよく似ている。
しかし、殻のような光の中で身体を丸めて眠るその姿は、いつも見る姿とは異なっていた。
何よりも目立つのは、白い肢体を包むように存在する羽毛に覆われた黒ずんだ翼だった。
白を汚すようなその翼は、なぜか背の右側にのみ生えていて、もう片方は何もない。
背中を隠すように長く伸びた白髪は、くせがなくいつもと変わらないのに、膝を抱えて丸くなっている白い四肢には、きめ細やかな鱗があり、指先の爪も鉤爪となって鋭かった。
まるで鳥と人が混じったかのような身体なのだ。