第27章 緋色の夢 〔Ⅻ〕
── 何がそんなに、おまえを繋ぎ止めてやがるんだ? おまえがすがれるもんなんて、もうねーはずだろ……?
「なぁ、楽になっちまえよ、ハイリア……。おまえには、もうこの道しか残ってねーんだ。おまえが苦しむことなんて、俺は望んでいないんだぜ? 」
どこまでも面倒くさい、馬鹿の一言では言い表せない程にバカなハイリアの頭を撫でると、苦しそうな表情が和らいだ。
「運命を恨め。俺がおまえの手を取ってやる。だから、堪えることなんてやめちまえよ」
抱き寄せて、泣いているハイリアの柔らかな肢体に埋もれ込む。
こいつが抵抗するたびに身体を重ね合わせちまうなんて、飢えているのは実は自分の方なのだろうか。
胸を締め付けるような、ぬるい熱が渦巻いて煩わしい。
それなのに、手放せなくてこいつの温もりに溺れてしまう。
涙を流しながらも、甘い声で名前を呼ぶハイリアに。
── また、やっちまったな……。
果てさせて眠りに落としてから、何となく後悔した。
「まぁ、食わせることだけは、どうにかできたけど……」
側の机に置かれている空になった水差しと、スープの受け皿を見て苦笑する。
こいつに食事を食べさせるつもりが、いつの間にかむさぼっていたのは俺自身だ。
気絶したように眠るハイリアの目元には、まだ涙の雫がついていた。
面倒くさい気分になるそれを指ですくって舐めてみると、わずかに塩辛さが舌先に残った。
「あんまりうまくねぇーな……」
思っていた通りの面白味のない味だ。
生温かくて、何かが足りない。
満たされないそれが、余計に浮かない気分を曇らせる。
側にいるのに……、温もりを感じるのに……、なぜか遠くにいるように感じる、今のハイリアとの関係と同じようで……。
── こんなに近くにいるってのに、どうしてなんでだろうな……。
眠りに落ちたハイリアを抱き寄せて、ジュダルは目を閉じた。
こいつの温もりは落ち着く。
心が離れていこうと、それは変わらない。
気分が悪くても、ハイリアを抱いていれば気がやわらいでよく眠れる。
だから傷つけちまう今も、離れられずにいるのかもしれない。