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【マギ*】 暁の月桂

第27章 緋色の夢 〔Ⅻ〕


渇いていた唇がすっかり潤みを取り戻した頃、水差しの瓶は空になり、スープの受け皿にも何もなくなっていた。

「うまかったかよ、ハイリア? ほら、全部飲んじまったぜ。よかったな。これでおまえは、しばらく死なねーな」

空になったスープの受け皿を見せつけて笑ってやると、ハイリアは涙を溢れさせていた。

それでも目的を果たせたことに、満足感を覚えて笑みを浮かべる。

「面白い……? こんなことして……」

涙を流しながらもわずかに力を取り戻したブドウ色の瞳が、刺すようにこちらを見つめてぞくりとした。

諦めの中でも強さを感じさせるその眼差しがもっと見たくなって、おとしめるような言葉を吐く。

「面白れーよ、おまえをいじめんのは。生意気なおまえが俺を恨んじまう瞬間を、早く見てみてーからな」

口元をつり上げて笑ったとたん、黒いルフを湧き立たせて爪を向けてきたハイリアの姿に血がたぎった。

── そうだ。俺を見ろ、もっとその目で。

憎しみを向けるその目を見ると、おまえがちゃんと近くにいる気がしていい。

── もっと俺の近くに来いよ。

早く堕ちろと思い、憎しみを買うような笑みを浮かべてやったのに、ハイリアから湧き出す黒ルフの勢いはすぐに失われた。

呪印の闇に堕ちることに、また抵抗を示したのだ。

暗黒の闇は、ルフに近いらしいこいつにとって毒のような苦しみであるはずなのに、何度、傷つけて憎しみを向けさせようとしても、ハイリアは拒絶を示して痛みに耐える。

呪印の闇に堕ちることを拒み続ける姿は、見ていて煩わしい。

涙を流すばかりで、胸が疼き痛んで面倒くさい。

── バカなやつ……。苦しいことなんてやめちまえばいいのに……。

苦痛を解いてやろうと、わざとその原因を諭すように言葉を連ねてやれば、黒に傾いているハイリアはすぐに二度目の憎しみに囚われた。

首を絞めつけてくるほどに激しいその感情からも、結局、拒絶を示して泣き崩れてしまい呆れた。

覗き見たハイリアの瞳には確かに怒りが宿り、こちらに憎しみを向けようとしているのに、それを必死で取り払おうとする何かが根底に見える。

黒の中で輝く一粒のきらめき。

まだ残るその白さに笑った。
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