第27章 緋色の夢 〔Ⅻ〕
どうにか食べさせようと考えていたのに、すっかり脱線していることに気づいたということもある。
だがそれよりも、この手があったかと今さら気がついた。
何も食べたがらないなら、食べさせてやればいいのだ。俺自身の手で。
── こいつが大人しく従うとは思えねぇーが……。
それでも、試してみる価値はあるだろう。
幸いにもハイリアは今、目を閉じている。
だったら気づかれる前に、思い付いた方法をやってみるまでだ。
まぶたを閉じているハイリアの様子をうかがいながら、ジュダルは慎重に側の机に置いてある水差しを手に取ると、それに入っている水を軽く口に含ませた。
そして、音がしないように水差しを机上に戻す。
── あとは、こいつに水を……。
バレないようにゆっくりと近づこうとしたところで、ハイリアが目を開けてドキリとする。
こちらを見つめる眼差しからは、戸惑っているような気配を感じ取れたからほっとした。
わかっていないならそれでいい。
恐らく勘違いをしているハイリアに唇を重ね合わせて水を注いだとたん、押さえつけていた身体が暴れ出したが、それを抑えこむことは容易だった。
吐き出されるかと思った水は、簡単にハイリアの中に吸い込まれていった。
ゴクリと飲み込んだ姿を見て、思わず笑みがこぼれる。
「なぁーんだ。ちゃんと食えるじゃねーか、おまえ……」
口元を潤ませて呆然としているハイリアを見下ろしながら、もう一度水差しを手に取った。
こんなに簡単だったなら、もっと早くこうしてやればよかったのだ。
気づかなかった自分の馬鹿さ加減に呆れる。
「一人じゃ何も口にできねーってなら、俺が食わせてやるよ」
水差しの瓶に入った水を口に含むと、ハイリアは予想していた通りに抵抗してもがきだしたが、その身体を押さえて口に含ませてしまえば、「いらない」と叫ぶこいつの言葉に反して身体は勝手に水を受け入れた。
こいつの身体は一週間近く、何も口にしていない。
水も食物も、本来は求めていて当然なのだから、当たり前の反応なのだろう。
何度も同じように水を送り、机にあった少し塩辛いスープも口に含ませてハイリアに食べさせた。
だんだんと抵抗する身体の力が抜けていき、吸い付き始めたその口が求めるものを与え続ける。