第27章 緋色の夢 〔Ⅻ〕
「どうでしたか、『マギ』よ。ハイリア様はお食事を食べられましたか? 」
部屋を出るなり、女官に声をかけられて戸惑った。
「まぁ……、もう少しだな」
表情が引きつるのを感じながら、ジュダルは冷静を装ってそそくさと部屋の前を過ぎ去った。
── 何が「もう少し」だ……。
大きなため息をついて歩き出す。
とっさに見栄を張ってしまったが、あいつに食事をとらせる方法なんて何も思いつかない。
部屋にいるハイリアは、確かに弱っていた。
呪印の闇に呑まれたルフが宿すものとは違う、鈍い響きのようなものが滲み出ていた。
あいつにこれ以上、弱られては困る。
部屋の効果で死なないにしろ、弱り続けていくあいつの姿を考えるだけで、どうもそわそわと気分が落ち着かない。
── とにかく、あいつに何か食わせねぇーと!
腕を組んで歩き回って、良い方法はないかと考えた。
けれど、あの意地っ張りをその気にさせる言葉なんて、いくら考えても思い浮かばない。
焦る気持ちばかりが膨らんでイライラした。
ふと、ハイリアの好みの食べ物でも持っていけばいいのではないかと思ったが、いつも何でもよく食べるあいつの好物が何かさえも知らないことに気づいて撃沈する。
こんなことなら、少しくらい好物を聞いておくべきだったかもしれない。
結局、答えが出せないまま、もやもやとした気分だけを余計に膨らませてハイリアの部屋の前に戻ってきていた。
ただ歩数を稼いで、時間をつぶすだけつぶしたことに呆れながら扉を開けると、中にいるハイリアはこちらの姿をチラリと見るなり、すぐに寝台に身を伏して背を向けた。
その側にある机の上には、先程持ってきてやった食事がすっかり冷めきって置いてある。
当然、何も手がつけられずにだ。
「おまえ、まだ食べてねぇのかよ……。いい加減、一口くらい食ったらどうだ? 」
「何も食べたくない……」
すぐさま顔も見えない答えが返ってきた。
「水くらいは飲め」
「いらない……」
「……意地はりやがって、顔色最悪だぜ、おまえ」
「どうでもいい……、早く帰って……」
「帰れるかよ。あれから、何も口にしてねーくせに……」
思った通りの展開に、溜め息が出る。
どうやって、この一度決めたら動かない、頑固者の意志を捻じ曲げればいいのだろうか。