第27章 緋色の夢 〔Ⅻ〕
目覚めたハイリアが全く食事をとろうとしない。
あいつの世話をさせている女官が言った言葉に、ジュダルは溜息をついた。
実にあいつらしいと思って。
「申し訳ありません。五日も眠られておりましたのに、目覚められてから一日たった今も、何も口にしていただけないのです。
いくらお声をかけても『いらない』と言われてしまいまして……」
「まぁ、そうだろうな……」
一度決め込んだら頑固なあいつに、いくら声をかけようと無駄だろう。
「あの部屋には特殊な魔法が施されているとはいえ、いつまでも食事をとらないのでは、ハイリア様も弱る一方です。
せめて、少しでも口にして頂ければいいのですが……」
確かに、あの部屋には生命維持を促すような魔法が施してある。
だが、あの魔法は身体機能が際立って低下している時にしか作動しない。
極限まで弱らせて拷問にでもかけたい奴ならまだしも、傷も治った今のあいつに、あの部屋の効果を使うつもりはない。
「仕方ねぇー……。俺が行って食わせてくるか」
そう考えて、温かい食事を持ってハイリアがいる部屋を訪れたのに、あいつは自分の姿を見るなり目を逸らした。
すぐに寝台の枕へうもれてしまい、背を向ける。
それが今のあいつにできる、精一杯の抵抗であることはわかっていた。
あれから目覚めて以降、ハイリアは部屋を訪れるたびに、こちらの姿を見ては思い出したように泣いていた。
泣くなと言ってもグズグズと泣き止まず、目を合わせようとしない態度に苛立って身体を重ね合わせた結果、いつまでも泣きはしなくなり、少しは目も合わせるようになったが、それからほとんど押し黙るようになった。
寝台に埋もれて顔を隠すのも、意地でも何も口にしないのも、その抵抗の延長線上のものだ。
そうだとわかっていても、ハイリアに目を逸らされると苛立ちがこみ上げて、焦燥感に駆られてたまらなくなる。
あいつがますます、自分から離れていくようで落ち着かない。
どうにも手を出してしまいたくなるのを堪えて、何か気が変わることでも言ってやろうと思って出た言葉は、「置いておくから、さっさと食っとけよ! 」という、どうしようもないものだった。
気づけば食事をただ机の上に置き、ほとんど逃げるように部屋を飛び出していて情けない気分になる。