第27章 緋色の夢 〔Ⅻ〕
「神官殿っ! いったいどこに行かれていたのですか?! 陛下との謁見があると、あれほど申し上げたはずですのに! 」
キンキンと耳に響く騒がしい声に、ジュダルは顔を歪めて耳を塞いだ。
「うるせぇーな……、だから悪かったって、何回も言ってんだろ? 」
宮廷に戻ってきたとたん、すぐこれだ。
遠出しすぎて、約束の時間に戻って来られなかっただけで、ぶつくさとうるさすぎる。
謁見なんて明日でもできるんだから、予定が狂ったところでなんの支障もねぇだろうに……。
「全く、あなた様という方は! あの側近が傍らにいなくなったとたん、何一つ、公務のお約束が守れていないことがわかっておりますか!? 」
ガミガミと覆面の男が言う。
「わかった、わかった。これから気をつけるって……」
「そう言って守られていないために、昨日は外交の話が流れ、一ヶ月も先に予定していた交易が延びたことをお忘れですか!? 」
「ああ!? あんな顔出すだけのもんなんて、期間がいくら伸びようが変わんねーだろ! あの子豚みてーな王に、気を使えってのか!? 」
「それでは困るのです! 『マギ』には、煌の神官としての立場も理解してもらわなければ……! 」
「あーっ、うるせぇ! 少しは、ほっといてくれよ」
苛立ちながら廊下を歩き出すと、後ろから声がついてきた。
「神官殿!! まだ、お話が終わっては……! 」
「うっせぇよ、ついてくんなっ!! 」
怒鳴り叫んで、ジュダルは男に背を向けた。
しばらく愚痴ぐちとうるさい男の声が後ろに聞こえたが、無視していくつか通路を過ぎてしまえば、耳障りな音も途絶える。
── ったく、せっかく少しは気晴らしになったってのに……。
足を踏み鳴らしながらたどり着いたアジトの魔法陣を超えて、薄暗い通路をひたすら歩く。
階段を降りたその先にある部屋の扉を開けると、ハイリアは整えられた寝台の中で、まだ眠りについていた。
よく見れば、黒ずんだルフとは対照的な白いワンピースを、新たに身につけている。
女官たちが、また勝手に着替えさせたのだろう。