第27章 緋色の夢 〔Ⅻ〕
「答えんということは、肯定でよいな? ハイリアはいつ戻る? あれは我が国の武官だ。いつまでもこちらに戻らんのでは、次のいくさ場に支障が出る」
「そう焦るなよ、紅炎。あと数日もすれば戻れるはずだからよぉ……」
「……それは、前と同じハイリアなのか? 」
「…………」
嫌なことを突かれて、眉間にシワがよる。
「おまえは、それで良かったのか? 」
不愉快に感じてじろりと、紅炎を睨みつけた。
「そんなもん、俺が決められることじゃねーんだよ」
「そうだったか? おまえが、そんなに素直に収まる奴だとは思わなかったが……」
やけにまっすぐに見つめてくる目が、あの日、自分を起こしに来た紅覇のものとも重なってイライラとする。
「うるせぇーなっ! あいつが戻れば、おまえはいいんだろ?
いつもは何も言ってこねぇーくせに、なんでハイリアだと、どいつもこいつも俺に突っかかってくるんだよ。俺に説教なんてしてくんな! 」
向けられる視線に責められてるようで、ムカついた。
次の声を聞く前に、駆け出したその足で宙に浮かび、手にしていた絨毯を広げて勢いよく空へと飛び上がる。
後ろから聞こえた声から耳を塞ぐように速度を上げると、風が渦巻く音がすべてをかき消した。
ゴーゴーと唸るようなその音の中に、無視できないような高い鳴き声が響いてきて、顔をしかめる。
ピィーピィーと追ってくる五月蠅い声の元は、一羽の白いルフだ。
近頃、やけにつきまとってくるコイツは、何度、振り払ってもいなくならない。
「うっせぇ、おまえもついてくんなっ! 」
杖を取り出して、風魔法でしつこいルフを吹き飛ばすと、ようやく周囲が静かになった。
── くっそ、なんでこんなに……!
むしゃくしゃする気分をさっさと無くしてしまいたくて、ジュダルは青空に光るひときわ大きな雲の中に、速度を上げまくって思いっきり突っ込んだ。