第27章 緋色の夢 〔Ⅻ〕
「あー、はいはい。あのうるせー野郎からだな……。いつもの時間に、いつもの場所にいろって言っとけ。ちゃんと、行ってやるからよぉ……」
謁見、謁見と、いつまでもついて追ってくる、覆面の従者の一人が思い浮かんで嫌気がさした。
あの男は、アレ以外に言うことがないのだろうか?
「頼みますぞ。お伝えしましたのにサボられたのでは、困りますから。
それと、神官殿……。ハイリア殿が目覚められたのでしたら、あのたぐい稀なる王を、我らは早くお調べしたいのですが……」
「っんなもん、ダメに決まってるだろ。期日内は好きにさせてくれる約束だったじゃねーか! 」
「やはり今はなりませんか……、仕方ありませんね。あと数日、お待ちいたしましょう。ルフ鳥の化身たる王の器が堕転されるのを……」
何がルフ鳥の化身だ。
つい最近まで、あいつをただの被験体としか見ていなかったくせに。
「話しは終わりだな? ハイリアをあの部屋から出すんじゃねーぞ。俺に黙って、あいつに勝手なことしたら許さねぇーからな! 」
相変わらず、実験体としてしかハイリアを見ていないことに腹立たしさを覚えながら、ジュダルはその男に背を向けた。
胸糞悪いアジトを抜けて、日が差し込む宮廷に帰ってくると、いくらか気が紛れるかんじがした。
── 天気だけは、やけにいいんだな……。
ここ数日、雨や曇りばかりだったからか、青空がよく映えて見えた。
澄んだその色と穏やかな風が、少しは気持ちを軽くさせる。
── 俺らしくねぇーな。
感傷に浸っているようで、馬鹿馬鹿しくなって鼻で笑う。
つまらない謁見の時間まで気晴らしに出かけようかと、絨毯片手に廊下を歩き始めた先に、見慣れた顔を見つけて足が止まった。
進む道を変えようと向きを変えたとたん、声がかかる。
「待てジュダル! 」
静止させる、その声に溜息が出た。
今、一番会いたくない奴に出くわしてしまった。
面倒な気分になりながら、振り返る。
「なんだよ、紅炎……」
「なんだ、はないだろう。いつまで俺から逃げるつもりだ? おまえが夜ではなく、昼間に一人で宮廷へ顔を出したということは、ようやくハイリアが目覚めたのだろう? 」
相変わらず、勘がいい。
誤魔化せないから、会いたくなんてなかったんだ。
歩み寄って来た紅炎を、ジュダルは黙って見つめた。