第27章 緋色の夢 〔Ⅻ〕
人を騙して泣かすことなんて、今まで散々してきたことだというのに、なぜかとても気分が悪い。
── なんでこんなに虚しいかんじがするんだよ……?
妙にむしゃくしゃして、胸が締め付けられるようで苦しかった。
泣かしたことを消し去るように、指で雫の痕をこすり拭く。
満たされない空虚感を埋めるようにハイリアに口づけを交わそうとした瞬間、脳裏に言葉がよみがえった。
『私が助けたいのは、あなたなの! 』
黒い闇に呑み込まれそうになりながら、必死に声を張り上げて、涙していたハイリアの表情が思い浮かんで、ジュダルは動きを止めた。
バカみたいな言葉だ。
それなのに、やけに胸に引っかかってとれない。
── なんだよ、それ……?
勝手に組織に潜り込んだおまえが悪いのに。
簡単に闇に囚われちまう、おまえがいけないのに。
── その原因は、全部、俺なのか……?
おまえを黒ルフに惹き寄せ、親父どもの罠へ歩ませたのも。
真っ白なおまえのルフを、おまえ自身を、黒く染めちまったのも。
── 全部、俺がいけねぇーのかよ……?
チクチクと胸の奥で疼き痛む感覚が苦しくなり、ジュダルは顔を歪めた。
それが大海を超えた遠くの国で感じた時のものと重なって、ひどく不愉快になるのに、触れた頬から伝わる温もりが、その気分すらやわらげて、煩わしくさせる。
── ずりぃよ、おまえは……。
口づけを交わすつもりが、すっかり気が失せてしまって、ジュダルは仕方なく眠るハイリアから手を離し、刻んだ傷を隠すように身体の上に掛物をかけてやった。
大きな掛布に覆われてしまえば、その寝顔はいつもと変わりなかった。
真っ白で、無防備な、あどけなさが残る、いつものハイリアが側に眠っていた。
その首筋にきっちりとはめられた、銀の装飾品が目について手を伸ばす。
首輪のような魔法具の中央にある滑らかな赤い宝石に指で触れた。
術式を埋め込んだコレに、マゴイを抑えこむ力があるなんて嘘だ。
元々、コレはただの調整器でしかない。
こいつの身体に混じり込んで乱れちまった二つのマゴイが、なじみ整うまでの魔法具。
今はまだ、こいつのマゴイに乱れが残るせいで、魔力の流れにズレが生じて使えなくなっているようだが、抑え込むことなど元々していないのだから、いずれ元に戻る。