第27章 緋色の夢 〔Ⅻ〕
いつの間にか、声すら聞こえなくなったハイリアを覗き込むと、意識はとうに失われていたようで、倒れかかってくる熱をもった白い体からは、すっかり力が抜けていた。
── やりすぎちまったか……?
ずるずると崩れ落ちてしまいそうになるハイリアを、ジュダルは腕に抱き寄せて、そのまま寝台に横たえた。
頬を上気だたせて淡く色づいた肌には、自分がつけてやった赤や紫の所有印が無数に刻まれている。
ここまでしても、まだ足りない気がした。
目覚めたハイリアは結局、親父どもに囚われていた。
黒に近いルフを湧き立たせながら、憎しみを口にしていたこいつが向ける視線の先は、あの女と覆面の魔導士たちだ。
このままじゃ、堕転して執着をもつのは、あいつらだろう。
あの女に、横からこいつをかすめ取られちまう。
そう思ったとたん、どうしようもない焦燥感にかられていた。
ただでさえ、こいつは奪われているのに、これ以上、あの女たちに自分のものが奪い取られていくなんて、許せなかった。
もっと、自分へ目を向けさせなければならない、と思った。
それが例えこいつを傷つけるような方法だったとしても……!
突きつけた虚偽と真実を知り、絶望の淵に追い詰められて、泣いていたハイリアの表情を思い出し、なぜだか胸の奥が疼き痛んだ。
嫌がる身体を押さえつけて、無理矢理身体を重ね合わせてやったというのに、こいつは俺を睨もうとはしなかった。
何度、快楽に沈めてみてもハイリアはその虜に完全に堕ちることはなく、ただ悲しそうに自分を見つめて涙を流すだけだった。
いっそ快楽に呑まれて溺れ狂っちまうか、拒絶を怒りに変えて、憎しみを向けちまえば楽だというのに。
── 俺を恨んじまえよ、ハイリア……。
憎しみで、殺してやりたいと思うほどに恨んで、堕転すればいい。
── そうすれば、おまえはきっと俺を無視できなくなるだろ?
向けられる視線が変わったとしても、おまえが俺自身から離れようと考えることは、なくなるはずだ。
「おまえは俺のもんなんだよ……。他のもんになんて囚われんな」
── 俺を見ろよ、俺だけを。そうすれば、おまえは……。
横たわるハイリアの頬に、涙のあとが残っていることに気づいて、なんだか苛立った。
泣かしたのは他でもない自分なのに。