第27章 緋色の夢 〔Ⅻ〕
「あなたの可愛い王は、どう黒く染まりきってくれるかしら?
堕転しきっていない状態で、この力ですもの。完全に暗黒の闇に囚われて、我らの手駒となった時が楽しみね。
きっと我らを導く黒きルフの化身たる王になるはずよ。良き暗黒点の候補にだってなれるかもしれないわ」
くすりと笑って、玉艶は目を見開き固まるジュダルの頬から手を放した。
「早くあの王を黒く染め変えなさい。期日は変えないであげるけれど……、きっと、そこまで長くはもたないわよ?
暗黒の闇は、今のままではあの子を傷つけるわ。苦しませずに変えてあげるのが、せめてもの優しさじゃないかしら? 」
にっこりと柔らかな笑みを浮かべると、玉艶はきらびやかな衣類をひるがせた。
衣類を掴んでいた手が振り払われる。
「あなたも早く傷を治してしまいなさいね。いつまでもそんな恰好で、こんな冷たい場所に座り込んでいたら、身体が冷えてしまうわ」
氷上に座り込むジュダルを残し、玉艶は背を向けて歩いて行った。
目に焼き付いた黒ルフをまとう闇のような女の姿を思い出し、ジュダルは憤りを覚えて真っ黒なルフを彷彿とさせた。
── ふざけんなよっ……!
寝台で眠り続けるハイリアの手を握る手に、力が入った。
落ち着いた呼吸を繰り返す、穏やかなその寝顔に変化はない。
反応がないことに、ますます苛立ちが募った。
「だれがわたすかよ……! こいつは俺のもんなんだ。おまえらの好きになんかさせねーよ」
あの女に、くれてやるつもりなどない。
誰の手にもわたしてやるものか。
── ルフだろうと、何だろうと、こいつは俺だけの……!
こみ上げてきた煩わしい熱の高まりがギリギリと胸を締め付けて、血も出ないのに痛々しいこれが、何かわからなくてイライラする。
チクチクと胸の奥で疼くいつまでも治まらない痛みに、ジュダルは眉間にしわを寄せた。