第27章 緋色の夢 〔Ⅻ〕
「あの子の記憶に触れたのね……。でも、私は特に変わったことは何もしていないわ。
あの子に刻んだのは、他の被験体と同じ呪印だけだもの。それ以上は何もしていないのよ」
こちらを見下ろして笑みを浮かべる様は、嘲笑っているようで腹立たしさを感じた。
「何もしてねぇーはずがねーだろっ! だったら、なんであいつがあんなに早く染まる?
あいつの身体にまとわりついていた、あの闇はなんだ!? 全部、知ってんだろ!? 」
「そんなに怒って、困った子ねぇ……。私は本当に何もしていないのよ?
あの子には、他の『十年計画』の被験体と同じように、幼少期に暗黒の種を植え付けただけ。
眠らせていたその種が、芽吹き始めたのが三日前。あの子のルフがそこから濁り、恨みの感情に囚われやすくなったということはあるでしょうけれど、それは他の被験体も同じだったこと。
おかしなことがあるとすれば、それはあの子自身の方じゃないかしら? 」
「あいつ自身がおかしいだと……? 」
玉艶はくすりと笑い、口元をつり上げた。
「ねぇ、ジュダル。あなたも見たのでしょう? あの子が魔法を使う姿を。
あの姿を見て、あなたはどう思ったの? 何かに似ていると、思わなかった? 」
「似ている……? 何にだよ……? 」
胸に波紋が揺らめくのを感じた。
気持ち悪いその波を振り払う。
「わかっているのでしょう? あなたは『マギ』だもの。気づかないはずがないわ。あの子は、あなたにとって身近な存在だもの」
かがみこんだ玉艶が頬に触れ、顔を覗き込んできた。
試すような玉艶の視線が突き刺さる。
「限りなく真っ白で、どこまでも純粋なきらめきをまとう……、あなたにとても忠実な存在がいるでしょう? 」
くすくすと笑う女の声が響き、心が大きく揺れ動く。
青白く発光していたハイリアの身体が脳裏に浮び、杖に集められていたあいつのマゴイの輝きがよみがえった。
それと似た、白い鳥どものことが思い出される。
やめろと、叫び出したくなる目の前で、歪んだ女の口元が言葉を紡ぐ。
「あの子は『ルフ』なのよ、ジュダル」
耳の奥深くにまで響いたその声が、拒絶していた感覚を握りつぶした。