第27章 緋色の夢 〔Ⅻ〕
「あのバカ、あとで覚えてろよ……! 」
伝わってくる冷たい氷床の感触に苛立ちながら、ジュダルは誰もいなくなった凍てつく部屋を見渡した。
冷え切った部屋の中に、牢獄だったころの面影はない。
鉄格子も、壁も、錠も、何もかもが跡形もなく破壊されて消え失せている。
氷上に落ちているのは、黒い砂塵と枯れ果てたような黒いジンの断片だけだ。
地下にいたはずの親父どもの姿も、ハイリアが魔法を吹き荒らした時には消えていたという。
── 全部、あいつがやったんだよな……。
だとしたら、呆れた破壊力だ。
黒いジンも、親父どもも、全部あいつがぶった切ったことになる。
組織に侵入を果たしたあいつが。
普段、傷つけることをためらうハイリアが、ここまでぶち壊したのだと思うとゾクリとした。
── さっきのアレは……、何だったんだ……?
青白く発光していたハイリアの姿を思い出し、ジュダルは瞳を揺るがせた。
ルフをざわめかせて、魔法を放っていたあいつの姿は異様だった。
まるで、自身が現象の中心だとでもいうように輝きを放っていた、あの姿は……。
「あら、随分と傷だらけじゃない。あの子にやられたのかしら? あなたの可愛い、愛しの王に」
ころころと笑う女の声が響いてきて、ジュダルは声の先を睨み付けた。
凍り付いた部屋の中に、いつの間にか玉艶が立っていた。
「何しに来やがった? 」
「そんなに警戒しなくてもいいじゃない。ルフが騒ぐから来てみただけよ。そしたら、面白いことが起こっているんだもの。すごいわねぇ、こんなに何も無くなっちゃって……」
壊された牢獄を見渡しながら笑みを浮かべ、楽しそうに歩み寄ってきた玉艶の姿に沸々と怒りがこみ上げた。
あいつの記憶の中で、同じ顔で闇の呪印を刻んでいた女の姿が思い浮かぶ。
「てめぇ……、あいつに何しやがった!? あの呪印は、おまえが刻んだんだろう! あれはルフを汚す力しかもたねぇーんじゃなかったのかよ……! 」
側に来た玉艶の服を掴み込んだが、足が使えないがために胸ぐらに手が届かなかった。
中途半端に、服の裾を引き掴むことしかできないことに苛立ちが募る。