第27章 緋色の夢 〔Ⅻ〕
きらきらと空から降り注いでは消えていく、小さな雪の結晶を眺めながら、ジュダルは呆然とその場に座り込んだ。
腕の中で安心しきったような顔で眠り込むハイリアの姿に、苛立ちを覚えて抱きしめる。
「なにが、『よかった』だよ……! 」
── ぜんぜん、よくなんかねーよ……。
抱き寄せた小柄な身体は、氷のように冷たかった。
その顔色は青白く、傷口から伝う血は服を赤く染めていて、今にも死にそうだというのに、傷さえなければ穏やかに眠っているようにも見えるから腹立たしかった。
「『マギ』よ、ご無事ですか!? 」
「よくぞ止めて下さいました! 」
嵐が治まるなり、都合よく部屋に駆け込んできた従者たちの姿が見えて、ジュダルは眉間にしわを寄せた。
「無事なわけあるか! こいつのせいで散々だ……」
一か八かで、ハイリアが放つマゴイに直接触れて魔力を扱ったせいで、こっちも全身傷だらけだった。
あちこちに稲妻が駆け抜けたような赤い傷が浮き出ているし、痺れた指先はどうも上手く動かない。
自分のものだか、ハイリアのものだかわからない血は寝衣を汚し、結わえられていない髪にまで絡んで鉄くさかった。
「しかし、なぜハイリア殿が魔法を? 魔法の素質を持つようには見えませんでしたが……」
「そのはずですが、確かにこの王は魔法を扱っていました。金属器も使わずに……」
「いいから、さっさとこのバカを治療してやれ! 死んだら承知しねーからな! 」
グズグズとしている従者どもを怒鳴りつけると、側に寄って来た覆面の男が冷たいハイリアの身体を抱え込んだ。
「わかっておりますとも。この王を失うようなことはさせませぬ! 」
「それにしても、ひどい傷ですな。この状態で、生きておられるのは奇跡かと……」
「マゴイも尽きかけています。急がねば! 」
傷だらけのハイリアを抱えて、親父どもが慌ただしく駆け出していく。
そのあとを追おうと足に力を入れたとたん、激痛が走って立ち上がれずに腰をついた。
「いってぇえ……、くっそ……! 」
足に全く力が入らない。
全身を走り抜けたあいつのマゴイのせいで、足の神経まで麻痺したらしい。