第27章 緋色の夢 〔Ⅻ〕
「ふざけんなよ……! 」
ぎりりと歯を噛みしめて、ジュダルは杖を握りしめた。
── 魔法が使えねーだと? だったら、力づくでも止めてやるよ!
杖先に集まるマゴイを解き、氷のつぶてが吹き荒れる嵐の中心にジュダルは足を踏み入れた。
ミシミシとボルグが軋みを上げて、ピシリと大きな亀裂が入る。
ひび割れた防壁の欠片が跳ねて頬を傷つけていったが、気にしてなんていられなかった。
青白い光を放つハイリアに腕を伸ばして、引き寄せる。
ハイリアの腕を掴んだ瞬間、逆流してきた青白いマゴイが腕から流れ込み、皮膚が切り刻まれるような鋭い痛みに、思わず手を引っ込めそうになった。
── くそっ、俺のマゴイなんだったら……。
「言うことききやがれー!! 」
激痛をこらえてジュダルは、ハイリアを強く抱き寄せた。
身体に流れ込んでくるマゴイに、自らのマゴイを押し込んで言い聞かせる。
ハイリアに流れるマゴイの中から自分のものを探し出し、そこからマゴイの流脈をたどって、中枢に宿るこいつのルフにまで手を伸ばした。
無数のルフたちを扱うあの瞬間を思い出し、普段は意識をしなくても手なずけられる騒がしい鳥どもに向かって命令する。
早くこの馬鹿げた魔法を止めろと。
「治まれよ、ハイリア! 勝手に力つきるな! 」
刺し込まれるような痛みに表情を歪めて叫んだとたん、閉ざされたハイリアのまぶたがわずかに開き、陰ったブドウ色の瞳がこちらを動き見た。
「ジュダ……、ル……? 」
ようやく眼差しが合わさると、なぜかハイリアは嬉しそうに微笑んだ。
その柔らかな笑みにどきりとする。
「よか……た……」
小さくかすれた声でそう言って、すぐにまぶたは閉ざされた。
ハイリアの言葉に感化されたかのように、溢れ出していたマゴイの光が薄くなり始め、ルフのざわめきが止んでいく。
ルフたちが落ち着きを取り戻すと共に、巻き起こされていた吹雪が途絶え、馬鹿げた魔法が少しずつ治まっていった。
刃のようだった氷の粒子が粉雪へと姿を変えていき、ハイリアの身体に絡みついていた漆黒の闇も輝きを失い、呪印の中へ戻っていく。
凍てついた部屋に、気づけば静寂が訪れていた。