第11章 暗闇の中で
シンの後ろでは、マスルールがこちらを見据えていた。
王に仇をなす者かと疑われているのだろうか。でも、それにしては眼差しが優しい気もした。
「何があったって……、何もないですよ。ただ、私は移民申請をして、シンドリアに定住しようかと思っていただけです。まさか、こんなところで王様に会うなんて思ってもなかったし、変な人だとわかって、迷ってもきましたけれど……」
それに、『マギ』と知り合いだなんて思わなかった。
シンがアイツと知り合いなら、シンドリアへ道を進めることは、危ない選択になりうる。それで迷っているのだ。
「移民? なぜわざわざシンドリアに? 他にも国があるだろう? 」
「シンドリアが、一番安全だと聞きましたから」
アイツから身を守るには、強固な守りに固められた国土でなければ、意味がないからだ。
「安全ねぇ……。俺が言うのも変だが、きっぱり安全な国とはいえないと思うぞ。何の考えもなしに異国に住むよりは、住み慣れた土地で暮らす方がいいようにも思うけどな。君の故郷は、いったいどこなんだ? 」
あまり答えたくない質問だったが、ここで隠すと余計に怪しく映るだろう。
「生まれは、東の僻地にある小さな村です。もうありませんけれど……。それから、私はずっとキャラバン育ちでしたから、出身がどこかと聞かれると曖昧です」
目を逸らしながら話したハイリアの言葉に、シンは少し黙りこみ、「そうか」と言った。
「……なるほどな、それで君は妙に警戒心が強いわけだ」
シンは納得したように頷いていた。
「でもな、ハイリア。君はもう少し人を信じてみるべきだよ。一人で出来ることなど、ほとんどないのだ。君は、何かを抱えているのだろう? それを、俺が手伝うことはできないのか? 」
ようやく取り調べのように続いていた質問が、やっと終わったと思ったのに、まだ探る様子のシンをみて、ハイリアは憤りを感じた。
「勝手にわかったようなこと、言わないで下さい!」
思わず叫んだハイリアを、シンはただまっすぐに見つめていた。
シンは勘がいいのだろう。けれど、そんな簡単にさらけ出せる問題だったら、今までずっと悩んでなどいないのだ。