第11章 暗闇の中で
―― こっちはリスクも伴う中、やっているっていうのに!!
ふざけているとしか思えないシンの姿に、ハイリアのイライラは最高潮を迎えた。
ずかずかとマスルールの後ろに近づいて、離れようとしないバカ王の服を掴み取ると、ハイリアは軸足を作って、勢いよくその体を背負い投げた。
そして、地面に落ちて、驚いた顔をしているシンに向かって指を突き指した。
「いい加減にしてください! うるさいんですよ! みんな寒いんですから静かにしてください!! 」
思いきり怒鳴りつけたハイリアの勢いに気圧されて、シンは青ざめて押し黙ると、慌てて謝り始めた。
「悪かった、悪かった! ハイリアは、ほんとに厳しいなあ……」
「そんなことありません! 」
せっかく美人なのに……と、オヤジみたいな言葉が聞こえてきて、ハイリアは呆れてしまった。
本当にこんな人がシンドリアの王だなんて信じられない。
七海の覇王の異名は嘘だったのではないだろうかと本気で疑った。
この警備にしたって、本当に盗賊が現れるのかは疑問だった。
さっきから怪しい人なんて誰も来ない。周りに誰もいやしないのだから当然だ。
肌寒いだけで、しかも、こんなどうしようもない王様の世話までさせられるなんて、がっかりだった。
「ハイリア、君はシンドリアに来たいのだったな? 」
突然おふざけもない、シンの真面目な口調が聞こえたけれど、ハイリアの怒りは冷めたわけではなかった。
「そんなの、あなたには、どうだっていいことでしょ! 」
「どうだって良くはないだろう。俺の国だ」
じろりと睨め付けながら、強い口調で言い放ったのに、見たこともないような真面目な顔して、こちらを見ていたから調子が狂ってしまった。
見るんじゃなかったと後悔する。
「君は、会ったときからアラジンやモルジアナと比べて異質だ。何をしに俺の国まで来たいと思っているんだ? 」
「何って……、なんでもいいでしょう。答えないといけないんですか? 」
「そう警戒するな。君のようなやつは、俺の周りにいるからわかりやすいんだよ。何があった? 」