第27章 緋色の夢 〔Ⅻ〕
── そう、あの時は……。
「あやつを助けなければならん、と思ったのじゃろう? 」
心を読まれたようで驚いた。
「どうしてわかって……? 」
「お嬢ちゃんから見えたことを、ただ言っただけじゃよ。
知りたいかい? あの若造が、どうしてそれを持っておったか。お前さんがなぜ、あやつにそんなにも惹かれるのか」
不思議な老父が、こちらをまっすぐに見つめていた。
「知ることが、できるんですか……? 」
「できるわい、それがお前さんの望みなら。ここは願いを叶えるよろず屋だからのう。
幸い、お主が知りたい記憶を知る物も、お嬢ちゃんの手の中にある。お主が知らない、あやつとの空白の時間を見てみたいかい? 」
自分が知らない、ジュダルとの空白の時間。
それはきっと、あの夜までにあっただろう闇に隠された記憶だ。
抜けている、一ヶ月ほどの時間も含まれるのだろう。
その記憶がわかるなら知りたかった。
ずっと、不思議に思っていたことだから。
なぜあの満月の夜に、自分が堕転の闇から目覚めることができたのか。
もしかしたら、あれは……。
あの時の声は……。
「教えて、おじいちゃん。何で払えばいいの? 」
じっと老父を見据えると、やんわりと微笑まれた。
「賢い子じゃ。だが、願いの対価はいらん。それはもう、お嬢ちゃんからもらっておるからのう」
「え? 」
「まあ、それもおいおい知ることになるじゃろうて。お前さんが知りたいのなら、ワシはその願いを叶えるために、お主に記憶を見せるだけじゃ」
そう言って老父は側で燃えゆく焚き火まで歩み、向かい合うと、深いしわが刻まれた手を広げて、それを素早く打ち合わせた。
パァンッと大きな音が響き渡った瞬間、霧のような白が続く空間が、星空に包まれた空間へと姿を一変させる。
目を見開いたその前で、燃えゆく焚き火の炎が勢いを増し、星の下に紅蓮の光が輝き出した。
「ここは記憶が行き交う場所。記憶は軌跡。星の粒子。そこにまことの心も映される。
さあ、我が魔具の銀星よ。刻んだ記憶を示すがいい。今、久遠の約束を果たそうぞ! 」
老父の声に連動するように、紅蓮の炎が鏡のような銀の光へと色を変えていく。
月明かりにも似たその光に、息をのむ中、側にいる老父は優しく笑っていた。