第27章 緋色の夢 〔Ⅻ〕
「なんじゃい。あの若造がそれを持っていたのが、そんなにおかしいのかい? 」
「おかしいよっ! だって、ジュダルは……、こんなの、大事に持っているような人じゃ……! 」
家族との思い出の服ですら、気にせず捨ててしまうような人だった。
何か小さな物を、大切に扱うような人でもなかったはずだ。
自分の都合に合わないことがあれば、すぐにむしゃくしゃして、八つ当たりしてくるような人なのだ。
あの夜、煌から自分が逃げ出したとわかれば、部屋に落ちていた髪飾りなんて、苛立って壊すか、投げ捨てるはずである。
── その彼が、部屋に捨て置いたこれを今まで壊さずに持っていたなんて……!
「信じられんかい? しかし、それは現にお嬢ちゃんの手元にあるではないか。あやつは、ずっとそれを持っておったんじゃよ。お主の手に戻るまでのう」
瞳を揺るがせて戸惑うハイリアに、老父が言う。
手元で光る銀の髪飾りは、欠けたところも見当たらなくて、最後にみた時と何も変わっていない。
それが今まで大切に扱われていたことを示していて、余計に頭が混乱した。
「なんで……? だって、私……。あなたのことも忘れるつもりで、あの場所から逃げ出したのに……」
── それなのに、どうしてこんな物を、未だ捨てずに持っていたの?
わからなくて呆然と立ち尽くす。
霧の団のアジトで再会したジュダルは、組織から逃げ出した自分のことを捜していたようではあった。
けれどもそれは、組織の被験体としての自分を捜していただけで、きっとそれ以上の感情なんて、彼にはなかったはずで……。
── だから、あの日、私を闇に堕としたのでしょう……?
助けようと思った心を踏みにじって、組織と共に暗闇へ突き落としたじゃないか。
酷い仕打ちを繰り返して、彼は確かに自分が堕転することを望んでいた。
それは、過去の記憶を見ても明らかで……。
「そんなに不思議かい、お嬢ちゃんや? ワシは、あの若造を助けたお嬢ちゃんの方が不思議でならんがのう。
逃げる対象であり、信用ならなくなったあやつを、なぜお前さんは助けたんじゃ? 」
「それは……」
どうしてと言われても困った。
とにかく、あの時は衝動に駆られたのだ。