第27章 緋色の夢 〔Ⅻ〕
── 金具……?
感触に戸惑いながら、その髪留めを外し見て、ハイリアは目を丸くした。
手に取ったそれは、見覚えのある銀の髪飾りだったから。
筒状の壁面には、月の紋様が描かれていて、縁には深紅の小さな宝石が散りばめられている、とても綺麗な……。
かつて、ジュダルからもらった髪飾りだったから。
「なんでこれが、ここに……!? 」
「それは現世にて、お主の手にその髪飾りが戻っているからじゃよ」
「そんな……!? だって、これは……、あの夜、部屋に置いてきたのに……! 」
「そうじゃな。確かにそれはあの時、お嬢ちゃんが捨て置いたものじゃ。だが今は、お主に返されておる。
その髪飾りを大事に持っていた者がいるんじゃよ。そやつと距離が近づいたからかもしれん。お嬢ちゃんに、その髪飾りを返した者がいるようじゃ。
その影響で、お嬢ちゃんは過去の夢を見ていたんじゃよ」
「じゃあ、さっきまでの記憶は……」
「そうじゃ。お主の手にある、その銀星が見せたものじゃ。少し前に、ワシの店にあったそれがのう。
物には持つ者の息吹が宿るんじゃわい。お嬢ちゃんが見ていた夢にも、それを持っていた者の記憶が混じっていたのではないかい? 」
不思議な老父に、まっすぐと眼差しを向けられて心が揺らいだ。
先程まで見ていた過去の夢の中には、確かに自分が知るよしもない記憶が、交差するように混じっていた。
宮廷に来たあの日から、堕ちてしまったあの日まで。
本当に自分が体験した出来事なのではないかと錯覚するほどに、違和感がなかったから疑問に思わなかったけれど、あれは自分の記憶ではない。
まるで、その人の目を借りているかのように、自然に見ていたあの記憶の断片は……。
「まさか……、これを今まで持っていたのって……!? 」
頭に浮かび上がるのは、漆黒をまとう一人の少年で、心が大きく乱される。
「そうじゃよ。お主が考えておる黒き若造じゃわい」
「うそだ……!? 変だよ、そんなの! 」
当たり前のように言った老父の言葉が信じられなくて、思わず声を張り上げていた。