第27章 緋色の夢 〔Ⅻ〕
── どうしよう……。
何度、露店を見渡しても、好ましい物なんて見つからないように思える。
それでも待っているらしい椅子を揺らす老父に困惑して、「やっぱり選べない」と声をかけようとしたその時、キラリと光るものが目に付いた。
目が惹かれたそれは、四角い銀色の小箱だった。
光沢も鈍くなっている、小さな金具箱。
それが何もいない鳥籠の中に入れられていた。
── なんだろう、あれ……。
心がそわそわとして、目が離せない感覚がする。
「おじいさん……。あの鳥籠の中に入っている、アレは何ですか? 」
「ああ、アレかい? ちょっと待てのう」
そう言って店主の老父は、ギコギコと揺らしていた椅子から飛び降りて、ごちゃごちゃと散らかった絨毯の上を歩き出す。
ひょこひょこと積み重なる貴金属の隙間を縫うように進み、鳥籠の中へ手を入れると、老父は金具箱を取り出して戻ってきた。
「これじゃろう? お嬢ちゃんが見つけたのは」
老父がみせてくれたその箱は、両手で包める程度の大きさだった。
細工もなく、シンプルな、銀一色の金具箱。
「はい……。何ですか、その箱の中身って? 」
「気になるなら、お嬢ちゃんがその手で開けてみれば良かろうて」
不思議な老父に差し出され、ハイリアは迷いながらも銀の小箱を受け取った。
両手に包みこんだ箱は軽い。
中身は固定されているのか、揺すっても音がしなかった。
── 小さいもの、なのかな?
そう思いながら四角い蓋を外してみると、そこには銀色の枠に沿って窪みがあるだけだった。
つまり、何も入っていなかったのである。
「え、何もない……」
「そりゃそうじゃ。それは空箱じゃからのう」
ふぉっ、ふぉっと老父が笑い出して、思わず目が点になる。
「お、おじいさん……、まさか、わかってて開けさせたの? 」
「まぁ、そうじゃな。仕方ないんじゃて、それはもうお嬢ちゃんが持っているんじゃからのう」
「私が持っている? 」
「そうじゃ。お嬢ちゃんが選んだその中身は、その長い髪に付けておる、ソレなんじゃよ」
「え……? 」
老父の言葉に困惑しながら、一つに結んでいる白髪の結び目に手を伸ばすと、カツンと硬いものが指先に触れた。
紐で結び留めていたはずなのに、それが何かに変わっている。