第27章 緋色の夢 〔Ⅻ〕
「もしかして……、あなたが、私の過去の記憶を夢で見せていたんですか? 」
「いいや、あれはワシではないぞい。ワシの店にあった物が見せていたんじゃ。ワシらはその語り部を、側で聞いていたにすぎん」
「おじいさんの店にあった物……? 」
「そうじゃ、少し前にワシの店にあった物じゃ。あれは、お主とも関係が深いからのう」
「私に関係が深い……? 」
老父の言うことが、さっぱりわからなくて頭が混乱する。
この人はいったい、自分の知らない何を知っているのだろうか。
「まあまあ、お嬢ちゃんや。そう難しい顔して答えを焦らずに、ワシの店を見ていってみんかい?
お嬢ちゃんが探しておる物も、案外簡単に見つかるかも知れんよ。ここは願いあるものが集う、よろず屋なんじゃから」
そう言って小さな老父は立ち上がり、貴金属が積み並ぶ露店の中へと、ひょこひょこ歩いていく。
「探しもの? でも私、何かを探しにきたわけじゃないですし……、何かを買いに来たわけでも……」
「ワシの店に来る客は、皆決まってそう言うんじゃ。騙されたと思うて好きなものを選んでみるが良い。そこに、お前さんの望む答えがあるはずじゃよ」
大きな絨毯の上にあった椅子に、不思議な店主が腰掛けた。
まるでこちらの答えを待つように、ゆりかごのようなその椅子をギコギコと揺らし始める。
── 好きなものを選べ、って言われたって……。
ずらりと露店に並ぶ商品に目をやって、それがガラクタの集まりのようにしか見えないから困ってしまった。
奥にある怪しげな銅像はなんだろうか。
一見、可愛くみえる小鳥の置物も尾が欠けているし、なぜか錆び付いた刀まで置いてある。
穴の空いた盾に、焦げたランプ、金具が切れた装飾品に、不気味な鉄仮面……。
壊れていない食器もあるようだが、貴金属が使われていれば、なんでも良しといったかんじで、どこからか拾い集めてきたような物ばかりだ。
── ここ、本当にお店なんだよね?
疑いをもって露店の側に立つ、背高いラクダに目を移すと、ラクダは変わらず口をもごもごとさせていた。
長いまつ毛の下で、ちらりとこちらの様子をうかがいながら。