第27章 緋色の夢 〔Ⅻ〕
「願いある者の側を行き交う、よろず屋……? 」
「そうじゃわい。お嬢ちゃんもワシの店に、何か探しに来たのじゃろう? 」
見渡す限り霧のような白が続く不思議な場所で、小人みたいに背の低い老父が金歯をのぞかせて笑っていた。
その眼差しは、ふさふさの白い眉に覆われてしまって、瞳の色すらよく見えないのだけれど、とてもまっすぐで嘘をついているようには思えなかった。
けれども、側で燃えゆく焚き火以外には何もないこの場所に、店なんてどこにも見当たらない。
まるで前に一度会ったことがあるかのように、「久しぶりだ」と言った見知らぬ老父は、ちょっと変わった人のようでハイリアは困ってしまった。
「えーっと……、お店ですか……? でも、おじいさん。ここにお店なんて、どこにも……」
「ないじゃないですか」と言おうとしたその瞬間、何もなかったはずの空間に、ラクダが一頭現れていて、ハイリアは目を見開いた。
いつの間にか、背高いラクダが、口をもごもごとさせながら座る老父の後ろに立っている。
── ラクダ……?
戸惑いながら視線を下ろしたその足下に、知らぬ間に広げられていた赤い絨毯が見えて驚いた。
大きな絨毯の上には、ガラクタのような貴金属が、ごちゃごちゃと並べ置かれている。
どうやらそれが、老父のお店のようだった。
「うそ……!? さっきまで何もなかったのに……! 」
突然、現れたその露店に目を丸くしていると、ふぉっ、ふぉっと笑う声がした。
「ここは、現世と夢路の中間点。変わったことも起こるじゃろうて」
「うつし世と、夢路の中間点……? 」
「ああ、そうじゃ。お嬢ちゃんは目覚めたといっても、まだ夢路の中から抜けただけなんじゃよ。長~い記憶の夢路からのう。
だから、お前さんの身体の方はまだ寝ておるんじゃわい。今のお主は、いわば精神体といったところかのう」
白く長い顎ヒゲをなでながら、老父がのんびりと説明した。
「おじいさん、あなたはいったい……? 」
「だから、しがない商人じゃて」
戸惑うハイリアを気にもせずに、不思議な老父は柔らかく微笑んだ。