第11章 暗闇の中で
ただでさえ、作戦に参与することに抵抗があるというのに、シンが一緒だと思うと、余計に気が乗らなかった。
シンがシンドバッド王だとわかって、やりづらいということもあるが、これから盗賊が攻めて来るかもしれないというのに、全くもって緊張感のないシンの態度に呆れているせいでもあった。
さっきから、シンが気にしているのは夜風ばかりである。
「さみー……、南東の国でも霧の夜は冷えるなぁ……」
さっきから情けない王様が、歯をガチガチと鳴らしながら、背の高いマスルールの後ろに隠れるようにして歩いている。
「風よけにしないで下さいよ」
逃げるマスルールの後ろに回りこむシンの姿は、本当にこの人が王なのかと疑いたくなるくらい幼稚な光景だった。
霧の町、バルバッドの夜風は確かに冷たい。
でもそれは、ここにいるみんなが感じていることだし、我慢できないようなものでもなかった。
さっきから、繰り広げられているコントのような情景に、ハイリアは深くため息をついた。
モルジアナとアラジンがいないせいか、少し心細くも感じていた。
二人が少しの間いないだけで、こんなに寂しさを感じるとは思わなかった。
前は、一人でも大丈夫だったはずなのに、いつの間にか誰かに頼る癖がついたみたいだった。
「よけないでくれ、マスルール」
「嫌ですよ」
警備にあたる『貴族の館』に到着しても、二人の大人はコントを続けていた。
その光景を呆れながらハイリアが見ている中、ついにシンが暴挙にでた。逃げるマスルールの後ろに飛びついて、その背中にしがみついたのである。
「……何やってるんスか。やめて下さいよ」
振り払おうと、マスルールが勢いよく体を横に振ると、肩にしがみついたシンの体が大きく揺れた。
「うわっ、落ちる! マスルール落ちるー! 」
マスルールがイライラとしながら体を振るが、シンは一向に手を放そうとしない。
館の前で繰り広げられる大人のくだらない行動に、ハイリアの怒りは、ふつふつと湧き上がっていった。