第26章 緋色の夢 〔Ⅺ〕
風をきって草原を走り、黄牙の村が見えなくなった頃には、太陽は真上近くまで登り始めていた。
馬の蹄の音を聞きながら大地を駆けて、低い草むらが続く平原を突き進む。
時々、辺りを見渡して、道が合っているかを地図で確かめた。
それと同時に、木々が生い茂る場所も探す。
なだかな山のふもとに、ようやく探していた森林を見つけてハイリアは、そこに馬を走らせて地面に降り立った。
急に走りを止めさせたことで、少し興奮している馬をなだめながら、手綱を引いて森林の中へと足を踏み入れる。
緑の濃い樹木の影は、陽が昇っていても薄暗かった。
草木が生い茂る地面に座り込み、湿り気のある柔らかそうな土に触れる。
「ごめん、許してアイム……。色々、考えたけど、やっぱり私……、あなたを売ることなんてできない……! 」
アイムの金属器を扱えるのは自分だけだ。
手放せば、それはただの腕輪でしかない。
銀の腕輪は、売れば金銭が手に入るだろう。
売られた先で、誰かが自分の腕輪を大事にしてくれるのかもしれない。
けれども、どうしても嫌だった。
我がままだとわかっていても、大切な腕輪が誰か知らない人の手に渡ることが。
── 本当は手放すことも嫌だけど……。それでは、あなたとの約束も守れなくなるから……。
「だから、ごめんなさい……! 」
ぎゅっと腕輪を強く握りしめてから、二対の腕輪を外して土に埋めた。
おばあちゃんにもらった、大事な形見を。
自分の片割れのような存在が眠る、金属器を。
罪悪感にかられながら穴を掘り、蓋をするようにふりかけた土を叩いて固くして。
「さようなら! 」
別れを言い放ち、胸の痛みをこらえて馬に飛び乗った。
そのまま後ろも見ずに、森林を抜けて草原を走り出す。
あの闇の組織から、必ず逃げきってみせるからと、いなくなってしまった大切なジンに、そう誓って……。