第26章 緋色の夢 〔Ⅺ〕
「……すみません、あまり言えません。私、実は追われてて……。
ここに長くいると、皆さんの迷惑になってしまいます。だから、すぐに旅立ちたいんです。
急に来て、ぶしつけなお願いだとは思いますが、金銭の代わりに、持っている物で交換の交渉がしたいんです。族長の方はいらっしゃいませんか? 」
「族長かい? それなら、お主の目の前におるよ。ババが黄牙一族の長じゃ」
老婆がにっこりと微笑んで、ハイリアは目を丸くした。
「あなたが……、では! 」
「まあ、待たれよ。そんなに急いでも、何もうまくいかなくなるもんじゃ。急がば回れというからのォ~。
つまり、お主は一文なし、ということなのじゃろう? ワシら一族と交渉をして、わずかな物を手にしたあとは、どうするつもりなんじゃ。
ここから、次の町までその足で歩いて行くつもりなのかい? それこそ、追われているお主にとって、危ない選択になるのではないかい? 」
「それは……」
その通りで、何も言えなくなってしまって、うつむいた。
「この辺りは、馬がなければ何もできないよ。お主は馬に乗れるのかい? 」
「馬には、乗れますけど……」
馬を買うほどのお金なんてない。
売れる物は、着ている支那服と、腕にしている銀の腕輪だけ。
せいぜい、買えるのは服と食料くらいで……。
「そうかい、馬に乗れるかい。では、お主には荷運びを手伝ってもらおうかのう」
「へ……? 」
「もうすぐ、定期市があるんじゃよ。そこに出す品物の一部をお主に運んでもらおうかのォ~。
定期市には、キャラバンも集まる。そこに行けば、お主の道も広がろうて」
ほっほっと、老婆が笑う。
「え、ちょっと、待ってください! 私、そんな大事なこと……! 」
老婆が言い出したことが信じられなくて、ハイリアは声を張り上げた。
「できんのかい? お主は馬に乗れると聞いたが……」
「そうですけど、無事に届くかも……! 」
「届くじゃろう。お主は何者からか、逃げておるようだしのう。急ぎの荷が早く着いて一石二鳥じゃ。
トーヤ、旅支度を手伝っておやり。馬も一頭貸してやるんじゃ。それから、定期市場におる我らの民に手紙文を。あとは、わかるね? 」