第26章 緋色の夢 〔Ⅺ〕
「おばあちゃん、みたい……」
気づけばそう呟いていて、ハッとした。
「あっ、すみません……。少し、私のおばあちゃんと似ていたので……。私のおばあちゃんも、ルフが見えたから……」
「そうかい、お主の祖母も見えたのかい」
柔らかに笑った老婆の表情は、昔みた優しいおばあちゃんの笑顔とそっくりで驚いた。
「あ……、おばあちゃん! お客さんを驚かせちゃだめよ。ごめんなさい、私のおばあちゃん、すぐおとぎ話をするの……」
いつの間にか、たくさんの服を抱えて、ほんわかとした優しいお姉さんが部屋に戻って来ていた。
抱えているのは、黄牙の民が着ている長い袖とズボンもついた、厚手の支那服だ。
「おとぎ話でねぇよ、トーヤ。ルフは今日も、そこいらをキラキラ飛んでおる。のう、ルフの子や」
老婆が親しげに、トーヤというらしい女性に言っていた。
どうやら、あのお姉さんは、この老婆のお孫さんのようである。
「またまた……。ほら、その子もびっくりしちゃってるよ。はい……、サイズがわからなかったから、いくつか服を持ってきてみたの。この中からちょうどいいのを着てみてね」
そう言って、トーヤは服の山をこちらへ手渡して立ち去ろうとする。
「あ、待ってください! 服までこんなにありがとうございます。でも、私……、こんなに良くしてもらうために、ここへ来たんじゃないんです! 」
慌ててハイリアは、声を張り上げた。
「私は、持っている物で少しでも物々交換ができればと思って来たんです。ですから、無償でこんなにしてもらうわけには! 」
「まあ、そう慌ててなさるな、ルフの子や。
何か事情がありそうだのう。ルフたちが騒いでおるよ、お主を心配しておるようじゃ。何があったか、ババに話してもらえんかね? 」
驚いた様子でトーヤが振り返る中、不思議な老婆がそう言った。
隣に座る老婆は、相変わらず視点の合わない左目で、こちらをじっと見つめている。
急に事情を話してと言われて困ったけれど、迷ったあげく、嘘はつかないことにした。
交渉の場で、そういうことは不利になるから。