第26章 緋色の夢 〔Ⅺ〕
なんかものすごく勘違いされているようで困ったのに、寒さで声が出てこなかった。
「よかったね、もう大丈夫だよ。こっちに来て! 」
答えられないまま、ほんわかした可愛らしい、麦色の長い髪をした女性に連れられて、一つのゲルに案内される。
温められたその部屋にあった囲炉裏の側に座らされると、一度、部屋を飛びたしてすぐに戻ってきたその女性に、温かな飲み器を渡された。
「はい、馬乳酒。寒かったでしょう? これで身体も温まるよ」
「あ、ありがとう、ございます……」
器が温かくて、かじかんだ手がじんわりと優しい熱をもつ。
思いがけず、集落の世話になってしまって、なんだか申し訳なくなってしまった。
自分はただ、旅支度の物々交換のつもりでここを訪れたのに……。
「あの……、ところでここの集落は……? 」
「黄牙の村よ。待っててね、私のお古だけれど、あったかそうな服持ってくるから」
そう言って、麦色の前髪を三つ編みで結っている、優しそうなお姉さんは、すぐにまた外の方へと駆けて行ってしまう。
「黄牙の村……。じゃあ、この人たちが、黄牙の民? 」
「そうじゃよ、我らが黄牙一族じゃ」
突然、隣からしゃがれた声が聞こえて、振り向いたとたん、背の低い黒い頭巾を被った白髪の老婆が二カッと笑っていた。
大きな左目を、ぎょろりとこちらに見開かせて。
「わああああっ!? 」
心臓が飛び出るかと思うくらい驚いて、思わず大声で叫んでしまった。
「なんじゃい、騒がしいのう。さっきから、隣におったではないか」
固まっているところを、その老婆にじっと顔を近づけて片目で見つめられる。
視点が全く合わないから戸惑った。
目が見えていないのだろうか。
「おや……、お主、変わったルフの輝きをしておるのう」
「え……、ルフ? おばあさん、ルフが見えてるの……? 」
「見えとるよォ。お主にも見えるのか? 」
二ッと老婆が微笑んだ。
白髪の三つ編みをした老婆は、よくみれば鳥の形をした杖を手にして座っている。
「おばあさん、もしかして……魔法使い? 」
「いいや、ババにそんな大層な力はない。ただルフの、この無数の命の流動が見えておるだけじゃよ」
そう言って、老婆が眺め見たゲルの天井では、きらめくルフたちの大河が流れていた。
本当に、この老婆にはルフが見えているようだ。