第26章 緋色の夢 〔Ⅺ〕
日が昇りきった低地の山影から、先ほど見つけたゲルの集落を見下ろすと、朝の放牧をし始めている遊牧民の姿が見えた。
真っ白なゲルの前に、馬や羊が何頭もいる。
この辺りは黄牙の民が住むとは聞くけれど、彼らもそうなのだろうか。
どこの部族であれ、礼儀をわきまえなければ、警戒されて物々交換などできなくなる。
一人で交渉するのは始めてだけれど、そういう事は、キャラバン生活の間に叩き込まれてきたのだ。
── どうにか、やってやるんだから!
なだらかな山道にそって、低い草の生える大地を踏みしめて、その集落へと向かう。
覚悟を決めて歩き出したのに、袖がなく、脚も露出してしまう支那服は、寒地であるこの場所に適するはずがなくて、ひどく寒かった。
なんとか我慢して歩き進むのに、どんどん身体が冷えていく。
集落の手前についた頃には、すっかり身体が冷えきって、ガタガタと震えてしまっていたから困った。
それでも、負けずに集落の手前で馬の世話をしている男の一人を見つけて声をかける。
「あの……、すみま……っクシュンッ! 」
声を張り上げたとたん、くしゃみが出てしまって、顔が赤らんだ。
男は振り返るなり、こちらの姿を見て目を丸くしていた。
短髪の茶色い髪をした活発そうな青年だった。
襟足を伸ばして結んでいる、小さな三つ編みが印象的な。
「あんた、どっから!? って、なんだその格好は……! 」
「これは、えーっと……、ですね。すみません……、これしかっ、持っていなくて……! 」
言葉を続けようとするのに、唇が震えて喋れなくなり、情けなくなる。
「おい、まさか……、こんな寒地をずっとそんな格好のまま歩いて来たのか? 凍傷にでもなったらどうするんだよ。おい、みんな! 」
男の呼びかけで、同じように馬の世話をしていた男やら、放牧の羊をゲルの小屋から出していた女やらが、あっという間に周囲に集まってきて困惑した。
「なんだ、なんだ? 」
「どうしたんだよドルジ、その子……!? 」
「わからねぇけど、このまま来たんだってさ……」
「追い剥ぎにでもあったのか? 」
「近ごろは、この辺りも物騒だからねぇ……」
「早く誰か、着る物持ってきてあげな! あっ、トーヤいいところに……! 」
── いや違うんです……。追い剥ぎにあったわけでは……。