第26章 緋色の夢 〔Ⅺ〕
「バカ!! ぜんぜん嬉しくないわよ……! なんで、アイムはいつも、いつもお節介で……、勝手に私を……! 」
こみ上げてくる感情の波で、うまく言葉が出せない。
唇を噛み締め、涙をおさえようとしてもこぼれ落ちてしまい、腕で何度、拭い去っても溢れて出してきた。
泣かないようにするのが苦しくて、しゃくりあげそうになる声を一度押し込めて、息を整える。
言葉を続けられずにいるのに、それでもずっと、言葉を待つようにアイムは何も言わなかったから、余計に胸が苦しかった。
感情を押し込めるように、きつく膝を抱えこむ。
「アイムのバカ……! ありがとう……、助けてくれて」
── こんな言葉しか、返せなくてごめんなさい……。
どうにか言葉を言って、また溢れてきた涙を隠すように、抱え込んだ膝元に顔をうずめた。
『もったいないお言葉です。どうか、あの組織から逃げきり、あなた様が望む幸せを手に入れて下さい。
あなた様が信じる道を突き進めば、それでいいのです。そこに、あなた様の望む、本当に大切なものが必ず見つかるでしょう。
失うことを恐れずに前へ突き進み、その大切なものをお守りください。あなた様にならできるはずです。約束ですよ、我が王よ……』
優しいアイムの声がして、ただ頷いた。
まるで頭を撫でてくれているような、温かな響きだった。
『さあ、そんなに時間はありません。日が真上になる前に、私を手放すのですよ。遠くから見守っております、いつの日も。お元気で、ハイリア様……』
アイムの声が途絶えたとたん、魔装が解けて、銀の双剣が二対の腕輪に戻っていった。
繋がっていたマゴイが離れて、アイムの気配が薄くなる。
きっと、もう話しかけても答えないつもりなのだろう。
── ずるいよ、ほんとに……。
こんな形でお別れだなんて。
本当は一緒にいたかったのに。
でも、わかっている。
前に進まなければ、アイムがここまでして助けてくれた意味さえ無くなってしまうんだ。
── 前に、進まないと……!
目元に溜まっていた涙を絞り出すと、ハイリアはそれを拭って立ち上がった。
アイムとの約束を果たすために。
一人でも、歩いていくために。