第26章 緋色の夢 〔Ⅺ〕
「ひどいよ、アイム。せっかく、あなたのおかげで闇が晴れたのに……! あなたまで、私を一人にするつもりなの……? 」
『泣かれますな……。私も出来るならば、あなた様を最期まで側でお見守りしたかった。
ですが、それではあなた様を、お守りすることが出来ないのです……。お許し下さい、我が王よ。
今まであなた様は、何があろうと困難を乗り越えて来られました。これからも、きっと出来るはずです』
「そんなの、いつも助けてくれる人が偶然いただけだわ。私の力なんかじゃない……! 」
『いいえ、その運の強さも我が王のお力です。どうか、私を売って遠くへお逃げ下さい。
あなた様が、あの組織から逃げ切り、あなた様が望む道を切り開いて生きていただくことこそが、私の願いなのです。
それとも、あなた様は私がいなければ何も出来ないお方なのですか? 我が王は、そんなに弱い方ではなかったはずです』
アイムのその言葉に、とびきり明るい笑顔を浮かべる、強くて優しい育て親を思い出した。
その人が今見ていたら、なんて言うだろうかさえ想像できてしまって、胸が締めつけられる。
( 俺たちはそんなヤワな人間にお前を育てた覚えはない。そうだろ、ハイリア? )
── そんなのわかってる……。わかってるよっ……!
背中を押してくれたアイムの気持ちがわかってしまって、涙がボロボロとこぼれ落ちた。
「ずるいよ、アイム……! 少し前にも、同じことを言う人がいたんだ。そんな風に言われたら、頑張るって言うしか、ないじゃないか……! 」
乱れる気持ちを押し込めるように、拳を握りしめる。
きっとアイムは、始めからこうするつもりで、自分をこの場所まで誘導したのだろう。
あの時のムトと同じように。
自分を無事に逃がすことを目的として。
旅に必要な、日銭代わりになることすら考えて。
『申し訳ありません、我が王よ……』
困り果てたようなアイムの声が聞こえた。
「なんで謝るのよ! 謝るなら、ずっと一緒にいなさいよ……。私、あなたに何にも返せていないのに……」
『いいえ、私はあなた様から、たくさんのものをいただきましたよ。それに、私が選んだ王があなた様で、本当に良かった。
あなた様のお力になれることが、私の最大の喜びなのです。こうやって、最後まで、あなた様のお役に立てるのですから』