第26章 緋色の夢 〔Ⅺ〕
「ほんと荒療治だわ……。でも、これで血も止まったし、腕もすぐに動かせる。
こんなことをしてるうちに、すっかり日が昇ったのね……」
見上げた空で輝く、眩しい朝日を眺めながら、ハイリアは笑った。
太陽なんて久しぶりで、少し変な気分だ。
こんなに温かいものだっただろうか。
「無茶したせいか、結構疲れちゃった……。でも、少し休んだらさっきの集落を訪ねなきゃね。もっと遠くへ行かなきゃいけないし……」
『そうですね。あの者たちにあなた様の所在がばれる前に、早く旅立ちませんといけませんから……。
少し休みましたら、あの集落で出来る限りの旅支度を整えて、さらに遠方を目指して下さい。私が宿る腕輪を、金銭の代わりにして』
「え……? 」
『あなた様には、やらなければならないことが二つあると言いましたでしょう。
一つは、あなた様の身に宿る闇を取り払うこと。もう一つは、我が金属器を手放すことです。
金属器に宿る我らジンは、「マギ」の呼びかけには反応してしまいます。私の金属器をもつ限り、あなた様は、あの組織から完全に逃れることはできません。
私をあの集落で売って、金属器を手放すのです、我が王よ』
アイムが言ったことが信じられずに、頭が混乱した。
── 金属器を手放せって……、売れって……。
「そんな……、何言ってるの? だってあなたは……。アイムだけは、私についてきてくれるんじゃなかったの!?
言ったじゃない……、無事に成功したら、どこか遠い、誰も知らない人がいるところへ一緒に行こうって!
アイムも、それも良いって、さっき言ってくれたじゃないか! 」
『我がままを言わないでください、我が王よ……。あなた様もご存知のはずです。「マギ」が宮廷にいるあなた様を、どこにいても見つけていたことを……』
確かにジュダルは、いつもどこにいようと、自分の居場所を元から知っていたかのように現れた。
彼が何かしらの印を見て、行動しているだろうことはわかっていた。
それが金属器だったとは、知らなかったけれど。
アイムの反応がジュダルに筒抜けならば、どこに行こうと意味がない。
きっとすぐに見つかってしまうから。
── でも、だからって……!
理由はわかっても、受け入れなんてできなかった。
急に別れを切り出すアイムが嫌で、嫌で、涙が溢れ出る。