第26章 緋色の夢 〔Ⅺ〕
右の背に見つけたその核を壊そうと、ハイリアはそこに向かって破壊の剣を押し込めた。
突き抜けるように右肩へ。
自らを拘束する闇の呪縛を断つように。
『ナンテコトヲ! オマエ、ソレガナニカ、ワカッテイルノカ!? 』
「うるさいっ、こんなもの何でもいい! 私は操り人形なんかじゃないの!! 」
力を込めた剣が、深々と背中まで貫いた。
銀の刃が闇の翼を真っ二つに断ち切って、暗黒の結晶がボロボロと崩れ落ちる。
『アア、我ラノ……ガ! ヨウヤク、アノ者ドモカラ引キ抜キ、……ヲ、手ニ入レタトイウノニ! 我ガ、レ……リノ……ヲ……! 』
青の炎に呑まれるように暗黒が燃え尽きて、闇の声が途絶えていった。
攻撃の対象をなくした火が、静かにルフから消えていき、身体を覆っていた黒い殻のようなものが剥がれ落ちていく。
呪縛していた暗黒の闇が崩落したのだとわかって、ハイリアはホッとしながら地面に座り込んだ。
身に宿るルフを燃やしたせいか、全身のマゴイの流脈がヒリヒリと痛んでいる。
こんな無茶苦茶なことしたのに、生きているなんて奇跡だと思った。
「どうにかやったでしょ……、アイム……」
『はい、よくご無事で……』
「私のルフは……、あはは、ひっどい色ね。このルフはどっちなのかな……? 」
はっきりしない、ぼやけた曇りガラスみたいな色になってしまって……。
『それよりも、肩の傷を! 我が炎で塞げば止血もできましょう』
「……アイムって、結構スパルタだよね。まぁ、私もそうするつもりだったけど」
創造の毒炎を作る双剣の一つを左で握り、癒しの炎を作り出す。
その炎を背中まで剣が突き刺さる右肩に当て、勢いよく入り込んでいる刃を引き抜いた。
鋭い痛みと共に血が流れ出た瞬間、癒しの炎が傷に灯り、チリチリと燃えながら壊れた細胞を急激に回復させていく。
刺し傷はみるみる塞がり、剣が突き抜けた傷口にそって、やけどのような瘢痕が残る。
毒の効能で無理矢理、細胞を活性化させるこの治療法は、何度も使えるものではないが、一回くらいなら効果てきめんだ。
一瞬、熱くて痛いのと、傷跡の見栄えが悪いのが、難点だけど。