第26章 緋色の夢 〔Ⅺ〕
燃えるような赤が身体を包み、ぞわりと漆黒の闇が溢れ出す。
絡みついてきた闇に混じって暗黒の声がした。
意識を奪おうと迫るその闇に向けて、ハイリアは炎を灯した二つの銀刀を振り上げる。
── 呑まれてやるものか!
青い炎を湧き上がらせて、漆黒の中に捉えたルフの一つに刃を刺しこんだ。
すぐさま燃え上がった毒の炎は、ルフをたどりながら闇を焼こうと走りだす。
その苦しさに意識が飛びそうになったが、唇を噛み締め、強い意志を宿して二つの毒炎を調整した。
自身にある暗黒の根源を燃やしつくすように。
闇の翼を断ち切るように。
二度とあの場所に戻らないように。
『ナニヲ、シテイルノダ! ヤメルノダ! 我ガ、愛シキ娘子ヨ!! 』
青炎に悶える黒い闇の中から、巨鳥の声が響く。
「いやよ! 私は、あの場所には戻らない!! 」
『ヤメルノダ! コンナコトヲシテハ、オマエガ、死ンデシマウ! 』
「私は、死なない。死んでたまるもんですか! 私はもう一度、やり直すんだ! 」
暗黒になんて囚われない。
あんな絶望、もう知りたくもない。
怒りも、恨みも、悲しみも……。
大切なものが奪われる痛みも、誰かを傷つける痛みも、もうたくさんだ。
争いのない場所へ行くの。
安心して暮らせる穏やかな、戦いのない遠い地へ。
── そこで、今度こそ私の居場所を見つけるんだから!
今までの嫌な記憶も、苦しいことも、幸せで塗り替えて、ずっと笑っていられるように……!
「おまえなんかに邪魔させない! 堕ちるものか! 」
意志に連動するように強く燃え上がった青い火炎が、マゴイの流脈をかけ走り、暗黒の闇を焼き解いていく。
身に宿るルフに青白い火を灯して、わずかに変質させながら。
『ヤメロ! ヤメルノダ! 』
闇を焼く炎に抵抗するように、暗黒が意識を奪おうと、さらに溢れ出して絡みつく。
その勢いに逆らおうと、思いを込めた火炎に、さらにマゴイをねじ込ませた。
そのマゴイの流脈にそって、身に宿るルフの姿が見える。
青白い炎に包まれた、いくつものルフが。
漆黒を薄くしながら走る、解毒の炎が続く先に、暗黒が渦巻く膨大な闇があった。
大きな漆黒の翼のようにも見える闇の塊。
暗黒の結晶とも呼べるものが。