第26章 緋色の夢 〔Ⅺ〕
『申し訳ありません。あの国から逃げて頂くことが先決と思われましたので、黙っておりました。
ルフの色を見られたでしょう? あなた様は堕転されてしまった。その事実は、どうあっても変わらないのです。それを覆し、なかったことには出来ません。
できたことは、ほんのひと時、その暗黒の闇を抑え、封じることだけでした』
「そんな……、じゃあ、それが動き出したら私……」
『ええ、再び暗黒の闇はあなた様を呑み込もうと迫り、恐らく元へ戻るでしょう。堕転して変わられていた姿へと……』
衝撃の事実に頭が混乱した。
『ですから、あなた様には、今から我が炎で夜明けと共に、身に宿る暗黒を焼き切っていただきたいのです』
「え……、焼く? 」
『はい、あなた様の身に宿るルフの闇をすべて。我が炎で焼き切るのです。
暗黒の闇をすべて焼くことができれば、あなた様を変質させる闇の力からは逃れられるはずです』
「なっ……!? ルフを焼けっていうの!? そんなことしたら……、私……! 」
『そうです、普通の者なら命を落とすでしょう。しかし、あなた様なら……、出来るだろうと信じております。我が炎の特性を理解する、我が主たるあなた様なら……! 』
真摯な声が頭に響く。
『あなた様の言う通り、危険な行為ではあります。ルフを焼き、暗黒を消し去ろうなど、誰もやったことがないことです。
成功するかもわからないこの方法は、賭けに等しいでしょう。このような方法で、堕転した事実に背こうとすることすら、本来あるまじき行為なのかもしれません。それでも、私は……! 』
声を詰まらせてアイムが唸る。
『どうあっても、あなた様をあの闇からお救いしたいのです。例え、あなた様が危険にさらされるとしても、万に一つでも可能性があるならば!
炎の調整ができなければ、あなた様は命を落とすでしょう。ですが、もし仮に命を落とさなくとも、闇が払えなければ、あなた様は再び堕転されるのです。
せっかく目覚められましたのに、暗黒の闇の中へ戻るおつもりなのですか!? 我が王よ!! 』
胸を打つ、張りあげたその声に心が揺らいだ。
アイムは本気なのだ。
本気でルフに宿る暗黒を焼くことで、闇の力から自分を解き放つつもりらしい。
『もうじき夜が明けます。時間はありません、ご決断を! 』